445回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 246:歌姫オーディション(8)
翌朝、グラウンドに向かう途中ほのかがいた。
声をかけようとしたが、彼女は鼻歌を歌いながら弾むような足取りをしながら歩いている。
昨夜の礼拝堂での歌と踊りの練習も夜遅くまでやったのに、ほのかはなんだか上機嫌だ。
人前で歌うのを恥ずかしがってたのに、鼻歌が歌えるようになるなんて、少し自信がついたのかもしれない。
彼女の成長に少し微笑ましい気持ちになっていると、ほのかが僕に気づいた。
「あっ!雄馬くーん!おはよーっ!」
「おはようほのか、元気いっぱいだね」
「昨日の戦闘で役に立てたのが嬉しくて!私ってYDKだったんだぁって」
「YDK?」
「やればできる子でーっす!」
そういって彼女は元気よく手をあげて満面の笑みを浮かべた。
「ほのかに自信がついてきたみたいでよかったよ」
プロデューサーとして鼻が高い、うんうん。
「雄馬くんと一緒にいると、どんどん自分でも知らなかった自分に出会えるみたいで、わくわくして!今日も雄馬くんに会うのが楽しみで♪」
うっ可愛い。
小さな子に懐かれてるみたいな微笑ましさだ。
やはりほのかのポテンシャルは計り知れない。
「やるよ!ほのか!目指すはテンペストナンバーワンだ!」
「えっ!?私アイドルになれればそれで……」
「ナンバーワン!ナンバーワン!」
「はっはいー!!なります!私ナンバーワンアイドルになります!!」
そんな調子で僕らはグラウンドに向かい、トレーニングや振り付けの確認などを行った。
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午後の実習、今日は地下洞窟だ。
中の分岐が多く、僕らはそれぞれ班を組んで別れて探索することになった。
メンバーは僕と陽介とアリスとほのかだ。
洞窟の奥深くにある、盗まれたオブジェクトの回収が目的。
普通の洞窟は壁や床が岩石などでできていたり、隙間から水が漏れ出て苔が生え、洞窟に住み着いた蝙蝠などの動物がつきものだ。
だけど僕らが来た洞窟は壁も床も柔らかい土でできてる。
水が漏れていることもなければ、動物が住み着いてるわけでもない。
なんだか嫌な予感がする、みんなに注意喚起しておいた方がいいかもしれない。
「みんな、なにか変化があったらすぐに知らせて。注意して進んだ方がいい」
「なんだか天井からパラパラ土が落ちてくるんだけど、いきなり崩れたりしないよな……」
陽介は槍を抱えるようにして不安がり、アリスはうとうとしながら歩いている。
ほのかは踊っていた。
え?
「ほのか?なにやってるの?」
「えっあっ振り付けの確認を、それより雄馬くん!少し振り付け変えてみようと思うの、見てて」
「熱心なのは感心だけど、今はこの場に集中して欲しいな」
「ダメですよ雄馬くん!ナンバーワン目指すなら頑張らなくっちゃ!」
アーッしまった、これはやらかしたパターンかもしれない。
陽介がじとっとした目で僕を見ながら口を開く。
「雄馬くーん?お前なんか変なこと吹き込んだだろ」
「ちが……僕はそんなつもりじゃ……」
「雄馬、責任とって」
「はい……」
思わずしょんぼり。
僕の悪ノリしやすい性格改めなくっちゃ。
「あ、雄馬くん。ちょっと右に避けてもらえますか?」
「?」
ほのかが踊りながらそう言って、僕は右によける。
「えいっ!」
「うわっ!?」
ほのかが突然僕のいた場所にストームウィップで巨大な風の刃をぶつけた。
壁は砕け散り、中にいた僕らの身の丈の二倍はある、巨大な蟻のような化け物が叫び声を上げて倒れた。
「なんだぁ!?」
「なるほど、アリさんのお家」
どうやらここは洞窟ではなく、巨大蟻が作った巣だったらしい。
「ほのかは壁の向こうから来るのがわかったの?」
「風魔法使いのスキル、ウィンドトーカーです。空気の振動を風を使って感知できるスキルで、敵の位置とか、この巣の内部構造も把握できてますよー」
そう言うとほのかは踊りのシメのポーズでえへんと決めた。
僕らはそんな彼女になんとなくで拍手を贈る。
正直僕の悪ノリ癖を強化したのは陽介達の場ノリで行動するとこじゃないかなぁとチラリと思う。
「えへへーやりました!」
ほのかは満面の笑みで僕に向かってVサイン。
嬉しそうだからまあいっか。
それに僕らが見てるのに踊れてた、いい傾向だ。
「頼りにしてるよほのか」
「お任せあれ!」
僕らはその後もほのかのナビで進み、敵を避けたり、最適のタイミングで迎撃したりしつつ、オブジェクトの場所に向かい、それを入手。
無事に帰還することに成功したのだった。




