441回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 243:歌姫オーディション(5)
今日の講義の内容は、魔石についての講義だった。
市中を騒がせている魔石、それを教会に持ち込んでいるプレイヤーがいるらしい。
でも 教授 の取り出した魔石は、黒い水晶のようなもので中心から外に向かって薄暗い赤光を放つ物だった。
魔石にも色々種類があるんだろうか?
紫水晶の方を出して、君たちが集めていたのは魔石でした、なんて言ったら混乱しそうだから無理もない話だけど。
「それでは雄馬君、前へどうぞ」
前置きなしか!僕を完全に実験体扱いである。
「断ってもいいんじゃねえの?」
陽介が教授のウキウキしたような顔に辟易しながら言った。
「多分大丈夫だろうし、いってくるよ」
僕は教壇に上り、黒色魔石を受け取る。
「貴方の心の在処をイメージしてください。それを伸ばし体を伝わせ、魔石に触れるのです」
目を閉じて、言われた通りにイメージしてみる。
体の胸のあたりに光る何かを感じた。
それを体の中を伸ばす感じで、手の中の魔石に触れる。
じわり、と何かが心に侵食してくるのを感じた。
それはカビが生き物を蝕んでいくのに似ていた。
細かな粒子が付着して、根を張り侵食範囲を増やしていく。
手を放そうとしても酩酊にも似た痺れがそれを許さない、目を開くとあたりの様子がぐにゃぐにゃに歪んで、目眩に襲われ吐きそうになった。
左腕が疼き、誰かの声が聞こえた気がした。
その瞬間、手の中の魔石が赤い光を激しく放ち、粉々に砕けてしまった。
講義室の中がざわつく。
びっくりしたぁ……手の中で電球を握りつぶしたような気分。
手の中の黒色魔石は光を失い、アスファルトに似た黒い結晶状の欠片になっている。
全身を襲っていたさっきまでの嫌な感じは全て消えて、狐につままれたような気分だ。
「なるほど、君の場合はそうなるわけですね。混沌構成物 による拒絶反応に近いでしょうか、実に興味深い」
教授は満足げにそう呟く。
僕は砕けた石を教授に返すと自分の席に戻った。
「大丈夫ですか?雄馬くん」
「うん、平気だよ」
「なんか今の光、この教会から出てる赤い霧に似てなかったか?」
そう言われてみると、教会から吹き出しこの島を包む霧の持つ微かな発光色と似ていた。
「余計な詮索はしない方が身のためよ」
伊織が無感情なトーンでそう言った。
その顔はどこか冷たく、教授を静かに睨みつけていた。




