436回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 238:君と僕の(2)
「はっ、いけないいけない」
昼間の戦いの疲れでうとうとしてしまっていた。
ベイルの頭の濡れ布巾を手に取るとすっかりぬるくなっていた。
桶の水に浸して絞り彼の額に乗せる。
ベイルの呼吸が安定してきてる。
山場はなんとか越えたようで、僕は胸を撫で下ろした。
「理由聞かないんだな……」
ベイルはそう言うとうっすらと瞼を開け、目を背けた。
取り乱した理由を無理に聞き出しても好転するとは思えないし、ベイルを苦しませたくない。
「僕は気にしてないから、ゆっくり休んで」
ベイルは黙り込み、しばらくの静寂の後口を開いた。
「俺の仲間から、お前に毒を飲ませろって言われたんだ」
僕は唇を噛んだ。
モンスターが探している僕に似た特徴の誰か。
僕をその誰かと断定したベイルの仲間が、標的を絞ったという事だろう。
「毒を飲んだらどんな状態になるのか、雄馬に飲ませる前に知っておきたいと思って。死なないって聞いてたし飲んでみたんだ」
「無茶だよ」
「はは、まったくだ。こんなに苦しむならお前に飲ませなくて正解だった」
そう言ってベイルは辛そうな顔で笑う。
僕のせいで苦しませてしまっていることが悲しくて胸が痛い。
僕はベイルの手を握った。
「……どうしてだよ、俺はお前を殺そうとしてたんだぞ」
僕は親愛の気持ちを込めてベイルを見る。
「言ったじゃないか、僕には君が必要だって。それに裏切られたなんて思ってないよ、君は身代わりになってくれたんだ」
彼の手を両手で包み込み、温める。
「僕の命の恩人だ、そうでしょ?」
ベイルは僕の言葉で顔をくしゃくしゃにして、それを隠すように片手で顔を覆うと声を殺して泣きはじめた。
そんな彼に僕はいたたまれない気持ちになった。
僕が彼を巻き込まなければ、こんなに苦しめずに済んだかもしれない。
ベイルを救うにはどうしたら良いんだろう。
奴隷契約を解消する方法がまだわからないし、解放したとしても街に戻った彼を仲間達がどう扱うか不安だ。
やはり僕が直接ハイエナ達と話をつけるべきかもしれない、どんな交換条件を出されるとしても。
それが友達として僕が彼にできる唯一の事だろう。
「お疲れ様です」
看護婦がやってきて、僕に話しかけてきた。
「あの、少し言いにくいのですが」
彼女は申し訳なさそうにそう言う。
お見舞いできる時間が終わりらしい。
このままそばにいたいけど、僕がいたらベイルの気持ちも休まらないかもしれない。
「明日また来るからね」
ベイルは嗚咽を漏らし、ただ泣き続けていた。




