44回目 被害者探偵
ある遺体安置所で一人の検屍官八城あずきが殺人事件の被害者の死体を調べていた。
「腹部に鋭器損傷、それに伴った動脈の切断、出血性ショックで死亡、年齢は23・・・、ん・・・?」
八城は被害者の口を開き歯の様子を調べる。
「職業・・・趣味のスポーツ・・・」
手の様子、各部関節、筋組織、キスをするような格好で眼球を調べる。
「この死体、やっぱり偽物だ」
「ブラボー!」
あずきは突然背後で大声を出され驚いて声を上げそうになった。
背後に振り返るとそこには一人の男の姿があった。
「なんですかいきなり、ここは関係者以外立ち入り禁止で・・・」
言葉の途中であずきは息をのんだ、男の顔は彼女が調べていた死体と同じだったのだ。
「死体と同じ顔の男が生きて君と話してる、これは奇々怪々だねぇ」
「おちょくらないでください、僕は科学しか信じてませんので。
貴方が本物の野洲家灯郎さんですね?自分の死体を偽装するなんて犯罪ですよ」
「まぁそう眉間に皺を寄せて言わないでくれ、楽しんでいこう。
まずはそうだな、自己紹介といこうか。
君のご明察の通り私が野洲家灯郎、職業は探偵をしている。
今回の経緯については私の命の危険から身を守るため、というのが動機だ」
「死んだと思わせて身を隠したっていうんですか、身柄を保護してもらえばいいのに」
「それでは足りないからこの手を使わざる得なかった。
それに通常死体の身柄がタグ付きで保証されてる場合本物かどうかの確認なんてしない、
でもこうして調べに来た人物がいたので接触を図ったというわけだ」
「解剖助手をしていていくつか腑に落ちない事があって・・・、
身柄の保護じゃ足りないってどういう事なんです?」
「警察では俺を死体にする手助けしかできん、保護してもらってる間に殺される。
なので俺のつてを使って徹底的に司法を苛め抜いた結果、
ある特権を俺は手に入れることができた」
死体を指さして彼は言った。
「警察を騙す権利、警察を騙すことに関して俺の行動の全ては合法なのさ」
「守れない代わりに騙していい、ですか。本当だとしたら呆れるしかないですけどね。
身代わりに死なせるっていうのはその範疇で許されるんですか」
「おっと、敵意の籠った目をするのはやめてくれ。
一応彼ともこうなる可能性込みの説明をした上での契約さ。
ボディーガードを雇い契約期間中にボディーガードが死んだとして、
守られた雇い主が罪に問われることはないだろ?」
「法律上はそうですね、ただ僕は法律は嫌いなんだ。
じゃなきゃ弁護士か検事にでもなってますよ」
「だから君は死を知る事で死を防ぐ番人を選んだわけか。いいね、気に入った。
君の助けを借りたい、これ以上私の身代わりに死ぬ者を増やさないため、
私がどうやって誰に殺されたか一緒に解明してみないか」
そういった野洲家灯郎をあずきは死神のようだと思った。
悪魔との取引のようなものだ、しかしあずきはこれ以上被害者を増やさないために断れなかった。
その日から八城あずきはその奇妙な探偵と共に、
彼の代理に殺されていく被害者から黒幕を突き止める推理につき合わされる事になってしまった。




