434回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 236:焔花(4)
そんなこんなで石像の撃破に成功した僕らは、本来の目的を果たすべく、都市の中にゾロゾロと入った。
爆裂防陣で門が吹っ飛んで、それをふみ付けにしながら入るのは、なんかすごく悪いことをしている気になってドキドキする。
「弁償とかは教会がしてくれるよね、たぶん」
「建物派手に壊すのお前か将冴くらいだからわかんないけど、将冴の奴が金で困ってるのみた事ないし、大丈夫じゃね?」
さーてとっと言って陽介はインベントリから大きな袋を取り出して走り出した。
今回のミッションはいつもの物と違い、ミッション形式のアルバイトの様な内容だ。
この都市に大量発生したクリーチャーから石を回収し、持ち帰った石を教会に納品してその量に応じた報酬が貰える。
陽介はこの間の休みの日に都市で派手に遊びすぎ、金欠だからと張り切っている。
アリスは今回も欠席、理由はミッションの内容が苦手だからだそうだ。
「クリーチャーってこれ、だよね?」
全身に白いタイツを纏った人間の様なものがあちらこちらに座ったり寝そべったりしている。
他の祓魔師達を見ると、みんな手慣れた様子で迷わずにタイツマンの腹部にナイフを入れて引き裂き、内臓をかき分け紫色の水晶の様な物を取り出して袋に入れていく。
「うっグロい」
アリスが嫌がるわけだ。
せっかく来たし、僕もしぶしぶみんなに習ってタイツマンを解体していく。
三体目くらいからだんだん要領がわかってきて、嫌悪感も麻痺してきた。
人間の順応性って怖いとこあるよな……。
にしてもこの生き物の内臓の配置と形がやけに人間に似てるのが気になる。
前の世界にいた時、父親の仕事の関係で興味があり、独学ではあるが医学を学んでいたため違和感があった。
石があるのは心臓で、まるで心臓に突き刺さった石が組織に癒着する様な形で入っている。
なんなんだろう、この石。
それにあの石像、もしかしてこの都市を何かから守るために配置されてたとしたら?
なんて、考えすぎかな。
石を袋に入れようとして、もう入りきらないことに気づいた。
携帯しやすいように小さめの袋にしたのが裏目に出てしまった。
「このまま手持ち無沙汰でタイムリミット待ちか、なんかもったいないな」
「よかったらこれ、使ってください」
声をかけられ振り向くと、そこにはウサギの刺繍のついた可愛いリュックサックを手にした、さっきの女の子がいた。
彼女は僕にリュックを差し出した。
「いいの?汚れちゃうよ?」
僕は自分の腰に下げた黒い体液まみれの小袋を見て遠慮した。
「だいじょぶです、こう見えてスキル付与で汚れない様になってるので」
「そういう事ならありがたく借りさせて貰います」
僕は彼女にぺこりと頭を下げてリュックを受け取ると、彼女はどこか満足げににこにこした。
「女の子には石の回収大変じゃない?」
「そこは我慢と、あとこんな感じで」
彼女は目を閉じ、ストームウィップの柄をタイツマンに向けると、えーいっ!と叫ぶ。
塚から発生したドリル状の光る風がタイツマンを貫き、紫水晶を取り出して彼女の手の上に落とした。
体液一滴もついてない綺麗な状態だ。
「へぇー!いいなぁ」
「えへへ、風魔法使いでよかったです」
「僕石集めのミッション初めてだから、まだ慣れなくて」
苦笑いしながら僕は目の前のタイツマンをぐりょぐりょする。
うー、手触りと匂いがキツい。
「手伝いましょうか?」
「そんな、悪いよ」
「いいんです、一人で黙々とやるの寂しくて」
そういうと彼女は風の鞭を使いパパッと石を取り出し、僕の手に落とした。
好意を無碍にするのも失礼かもしれない。
僕は彼女と一緒に石集めをすることにした。
「そういえば自己紹介がまだだったね」
「あっはい、えっと」
女の子はもじもじした。
名乗り合うだけなのにそんな恥ずかしがらなくてもと、僕は少し笑う。
「言い出しっぺからね、僕は雄馬。」
「雄馬くん、わかりました!それじゃ私ですね。私はほのかって言います。焔に花って書いてほのか、でもでも少し私っぽくないから、ひらがなで呼んでもらえると嬉しいです」
ほのかは一生懸命僕に自己紹介した。
少し不器用でがんばりやの女の子みたいだ。
「よろしくね、ほのか」
「はうーっひらがなで呼んでくれた感じするです!」
彼女にとってよほど大事な事らしく心から嬉しそうな顔をする。
なんだか少し変わった子だなと僕は笑う。
僕らはその後談笑しながら、ミッションの制限時間いっぱいまで二人で紫水晶を集めた。




