428回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 231:炎の中の真実(4)
「お兄ちゃんこっちだよ!早く早く!」
「ふふっ、ラウも久しぶりにゆう坊にあえてはしゃいでるな。おーい、慌てて走ると危ないぞ!」
「はーい!」
僕とベイルはその後、ブルーノ達に案内され、地下水道の中の彼らの隠れ家にやってきた。
そこは即席で作ったと言うよりは、どこかの組織が活動拠点として作ったようなしっかりした作りをしていた。
沢山のモンスターや獣頭人達が洗濯物を干したり、穴を掘り広げたり、様々な営みをしているようだ。
「ほえー、こんな場所が足元にあったとはなぁ」
「ブルーノ達はなんで僕らが来るのがわかったの?」
「見張りがゆう坊が近くに来てるって言うんで、ゆう坊が行きそうな場所に先回りしてみたんだ」
そう言ってブルーノは周りにいる酒場のメンツを見て苦笑いする。
「俺一人で行くつもりだったのが、みんなついてきちまってああなったがな」
「ゲリラみたいな事してるんだな」
「戦闘行動はしてないが、身を隠す必要があるから仕方なくな」
ブルーノの話では元々ここは、この国に忍び込んでた魔王軍の一団が作った場所で、民間人の獣人狩りから逃れた獣人達を彼らが匿い隠れ家にしているのだという。
ベイルの言っていたモンスターの一団だろうか。
彼らが探しているのは、僕に特徴が似た誰か。
見ず知らずの他人であるはずなのに、どうしても何かが引っかかる。なぜなんだろう。
ここにその疑問を解決できる人がいるかもしれない。
だけど今僕がするべき事は、それじゃない。
「ブルーノ、僕みんなに謝らなくちゃ。僕がしたことのせいでこんなことに……」
僕の言葉を遮るように、ブルーノは僕の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫で回した。
うー頭がガクンガクンして首がもげそう。
ベイルが手を口に当てて、オロオロしながら心配そうな顔をこちらに向けている。
「ゆう坊が謝る事じゃない。みんな五体無事でいられたのも、ここでまた会えたのも、ゆう坊が身を挺して俺たちを庇ってくれたからだ。それはみんな知ってる」
ブルーノの言葉を聞いて辺りを見ると、目があった獣人達はみんな僕に笑顔を見せてくれた。
通りかかった獣人のおばちゃんが、「お食べ、元気が出るよ」とみずみずしいリンゴを一つ僕に手渡してくれた。
みんなの気持ちが嬉しくて涙が出そうになる。
「やれやれ、少し見ない間に随分泣き虫になったな」
そう言ってブルーノは僕の目尻を拭ってくれた。
「表で暴れてる連中のことは残念だがな……そういえば、ゆう坊の周りで 魔石 の話はなんか聞いたか?」
「魔石?聞いたことないよ、なにかあったの?」
「巷で魔石っちゅうもんが流行ってるって話でな。それを持ってると力は強くなり頭の回転も良くなって、四六時中幸せな気持ちになれるらしいんだ」
「へぇ、そりゃいいなぁ」
ベイルが物欲しそうな顔で話に入ってきた。
「効果がそれだけなら一つ欲しいところだがな、石の光が消えると猛烈な中毒症状が起きて、魔石を手に入れるためならなんでもするくらいになっちまうらしいんだ」
「もしかして暴動が起きてるのも?」
「さすがゆう坊だ、魔石が関係してるんじゃねえかって考えるよな。噂話までで現物を見たわけじゃないんだが。そんなものが出回ってるとしたら厄介だ、ゆう坊も気をつけるんだぞ」
「うん」
「お前おっさんの前に来ると子供みたいになるのな」
「ブルーノのそばにいるとなんだか安心しちゃって」
「俺もゆう坊に会えて本当に嬉しいぞ、もう会えなくてもおかしくないと思ったからな」
「こいつ三日三晩泣き通しだったんだぞ、毎日俺のゆう坊が心配だの、迎えに行くだのうるさくてなぁ」
「待てよマレー、三日三晩は言い過ぎだ。二晩くらいだっただろうが」
バクの獣頭人のマレーがブルーノをおちょくってへらへらと笑い、ブルーノは顔中に汗をかいて否定する。
あの日々の続きは確かにここにある。
みんなの営みを見て、僕は知らないうちに笑顔になっていた。




