426回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 229:炎の中の真実(2)
「さぁもう逃げらんねぇぞガキィ」
「大人しく盗んだ財布を返しな」
「これはぼくのだ、婆様がくれた大切なお金なんだ。お前らなんかに渡さないぞ!」
「あっそ、じゃぁ力づくだな」
ラウの顔面にチンピラの蹴りが迫る。
僕は間に割り込み、蹴りを右腕で受け止めた。
「ギリギリセーフ!」
「お兄ちゃん!戻ってきたの?」
「お休みの間帰ってこれることになってね。ここは僕が引き受ける、ラウは逃げて」
「かっこつけてんじゃねぇぞお坊ちゃんが!」
チンピラの一人が僕に向かって角材を振り下ろす。
空中でそれが弾けて真っ二つになり、僕の眼前にベイルが現れた。
どうやら彼が蹴りでへし折ったらしい。目にも止まらぬ一撃だった。
「無茶するな雄馬、いくら腕が立つって言っても頭に食らえば大怪我だ」
「ありがとうベイル、いつのまにそんなに早く動けるようになったの?」
「ん?お前が危ないと思って咄嗟に体が動いて、どうやったんだ俺?」
わからんのかい!思わず僕はずっこけた。
「お前覚えてるぞ、俺たちが吊るしたモンスターじゃねえか」
「くたばりぞこないが邪魔してくれちゃってさぁ、また吊るされたいみたいだな」
「雑魚どもが今度はそうはいかねぇっつーの」
ラウを逃して立ち上がると、僕はベイルに話しかけた。
「僕がいくよ」
「お前が人間相手に面倒起こしたら不味いだろ。なぁに腹さえ減ってなきゃこんな連中、俺一人で十分だぜぃ」
ベイルは右拳を左手のひらに打ちつけ音を鳴らした。
自信があるみたいだ、教会でラングレンに武術でも仕込まれたんだろうか?
「騒がしいと思えば、また貴様か山桐雄馬」
聞き覚えのある声がした。
小太りの体を貴族的な服にねじ込んだような格好をした男、助祭のズロイだ。
彼の後ろには隷従騎士の一団があった、コッヘルを預けたのとは別部隊のようだ。
武器や鎧に返り血がついているのが気になる。
「暴力的な獣人達には困らされる。他の者達まで危険な存在と思われてしまうからな」
「僕らはあなたのところのラウを助けただけです」
「ラウ、ああ、私が解放した獣人か。せっかく自由を与えたというのに、やる事が盗みではまったくもって情けない」
「婆様にもらったと言ってたぜ?」
「喋るなモンスターふぜいが!母はあんなケダモノを愛してなどいない!」
顔を憎悪で歪ませたズロイは、一呼吸置いてすまし顔をした。
「民を暴力に駆り立て、まして民に暴力を振るう、悪い獣人共はこの街にいるべきではない。そうですよねみなさん?」
チンピラ達はその通りだと騒ぐ。
「見せしめです、そこの獣人君には公開処刑されてもらいましょうか」
ヒャッハー!と叫びながら飛びかかってきたチンピラ達を、ベイルは素手で手早く一掃し、倒れた彼らを見下ろし鼻息を吹いた。
「でも流石に次のは」
「無理だな、逃げるか!」
隷従騎士達が一斉に武器を構え、僕らは踵を返して逃げ出した。




