423回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 226:街へ行こう(3)
やたらと荘厳な音で奏でられるJPOP。
暑苦しいくらいの動きを加えて劇的に歌う陽介。
やたらノリノリでタンバリンを叩く伊織に、マラカスを無表情で鳴らすアリス。
なんなんだこのカオスな状況。
陽介の行きたい場所とはカラオケ店の事だったらしい。
ここもプレイヤー達の要望で再現された施設らしく、演奏は音楽隊による生演奏という無駄な豪華さ。
曲はプレイヤー達の耳コピに、この世界の音楽家が編曲を加えたものらしい。
さすがの権利団体も異世界までは使用料金の徴収には来れないんだろうな……。
「フゥワッフゥワッ!」
陽介の熱唱に伊織のノリノリな合いの手が入る。
楽しそうな二人はともかく、来たがってた割に無表情なアリスを見ると、彼女は僕に向かって親指を立てて見せた。
楽しいんだ……、プレイヤーはほとほと変わり者が多いみたいだ。
ベイルは興奮した猫みたいな顔をして、天井で回転するミラーボールの光を猫パンチしている。
「こっちはこっちで変なスイッチ入ってるし」
「ほい!!」
そう言って陽介は僕にマイクを差し出してきた。
「えっ僕が歌うの?」
「こういうのは場に馴染めてない奴に振るのが楽しいんだ」
「えぇ……?」
「ああー見たい、聴きたいなぁ雄馬の歌ってる所!」
伊織が陽介の側について煽ってきた、おのれブルータス。
「雄馬の得意なのでいいよ、台帳にこの間のロックグループのあったよ」
そう言いながらアリスは容赦なく音楽隊に曲をリクエストした。
「押しが強いよぉ」
僕は助けを求めるようにベイルを見ると、ベイルはなんだかワクワクしたような顔をして、聞く準備を万端にしていた。
くっやるしか、やるしかないって言うのか。
僕はマイクを受け取り、恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、ステージに上がる。
前奏が始まり、少し深呼吸をすると、体が馴染みのあるメロディに反応して、自分でも驚くくらいスムーズに歌うことが出来た。
僕の歌を聴いて、想い想いのリアクションを見せてくれるみんなの様子を見て、僕はようやくこの状況が理解できた。
みんな塞ぎがちだった僕を元気付けようとしてくれていたんだ。
そう思うと胸が暖かくなって、歌にも熱がこもった。
僕の後にはベイルが歌わされた。
彼も面白いくらい挙動不審になり戸惑っていたが、僕によろしく最後には腹を括ってステージへ上がった。
ベイルには馴染みのない歌ばかりなので、彼はハイエナ族に伝わる歌を歌ってくれた。
遠吠えに似た発声の混じった歌は、珍しくも懐かしい響きがあった。
それから僕らはいろんな歌を歌った。
陽介とベイルと僕三人で歌ったり、伊織に半ば無理矢理恋愛ソングをデュエットさせられ、アリスに熱烈にマラカスを振られたり。
僕らのカラオケ大会は、大もりあがりの中幕を下ろしたのだった。




