420回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 223:君と共にあるもの
その晩は食事も喉を通らず、部屋に戻るとベイルがベッドに座ってうとうとしていた。
「ふぁ……っふ、遅かったなぁ雄馬」
ベイルはぐしぐしと顔を拭いながら僕を見た。
「帰ってくるの待っててくれたの?」
「心配してたわけじゃないぞ。お前に何かあったら死活問題だから、寝るに寝られなかっただけだし」
心配してくれたの?なんて聞いてないのに。
ベイルの素直じゃないところが可愛くて少し笑い、僕は彼の隣に座った。
「怪我はしてないみたいだな、よかった。あ……お前が怪我すると面倒だからな」
そう言ってベイルは尻尾をゆっくり左右に振る。
僕がベイルにもたれかかると、彼は何も言わず肩を抱き、僕の頭を撫でてくれた。
「今日はどこ行ってたんだ?」
「コルネ村ってとこ」
「あー……あんまいい話聞かないとこだなぁそこ」
「知ってるの?」
「モンスターが人間を憎む原因の一つって言われてる場所だ」
「モンスターについての話は聞かなかったよ」
「人間には興味のない話だろうし、お前は知らない方がいいかもなぁ……」
「僕の行き先に興味持つなんて珍しいね」
「お前の様子がおかしいからだよ、なにかあったのか?」
「そう?……そうかな」
「悩みがあるなら聞くぞ」
ベイルは静かな優しい声でそう言った。
「戻ってきてからなんだか変な気分なんだ。寂しくて苦しいような、僕疲れてるのかな」
僕の頬をベイルが舐めた。
「えっ?どうしたの急に」
なんだかキスされたみたいな恥ずかしさを感じて、僕は顔を赤くした。
「お前が美味そうだから舐めただけだ」
そういいながらすまし顔をしているが、だんだんベイルの顔も紅潮していくのがわかった。
「モンスターって人間食べるの?」
「……獣人型は食わねぇーな」
「ふふっベイルは嘘をつくのが下手だね」
「うるせーやい」
僕はベイルの手を握る。
「ベイル、一緒に寝てくれる?」
「子供かお前は」
「ダメかな?」
ベイルは頭を掻いて恥ずかしそうな顔をすると、彼は僕を抱きしめて、ベッドに倒れ込んだ。
ベイルの胸に耳があたり、彼の鼓動が聞こえて、少し気持ちが楽になった気がした。
「体がすげえ冷てえじゃんか」
そう言うとベイルは、僕を労るように強く抱きしめてきた。
彼の熱いくらいの体温が心地よくて、僕は泣きそうな気持ちになる。
「こうして頼られるのも、悪い気はしねぇもんだな」
ベイルはそう言って、僕の頭を優しく撫でてくれた。
「お前には俺がいる。辛いことがあったら言えよ、聞いてやるくらいしかできねーけどな」
「うん、ありがとうベイル。そう言ってくれてすごく嬉しい」
僕はベイルを力一杯抱きしめ、胸に顔を押しつけて、彼に気づかれないように静かに泣いた。




