416回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 219:咎人の祭歌(3)
「ねぇ、君」
エレナに声をかけようとした僕の肩を氷雨が掴み、耳打ちした。
「女の人の方、よく見て」
エレナを抱きしめ愛しそうに撫でる女性の手が白骨化していた。
僕は氷雨にうなづくと、いつでも臨戦態勢に入れるように気を引き締め、二人に近づいた。
「こんにちはエレナ」
幸せそうな顔をしていたエレナは、僕を怪訝そうに見つめた。
「知らない人とお話ししちゃダメって、パパから言われてるの」
「エレナが特別な宝物を持ってるってパパから聞いてね、それを見せて欲しいんだ」
「パパがそう言ったなら、見せてあげる」
エレナはバスケットから水晶でできた髑髏を取り出し、僕に差し出した。
それに触れようとすると、僕の指先が輝き、エレナを抱いていた母親の肌が黒変し、目から黒い体液を流し始めた。
エレナは髑髏を僕から引き離し睨みつける。
「私からママを取らないで!」
「このままじゃ君のパパや、村のみんなが酷い目に遭うんだよ」
「ママが教えてくれたの、死んじゃえば朝にはみんな生き返るって」
「……アンデッドは君が操っているのか」
「そんなうまい話なんてない、大方朝の時点での生存者数に応じた蘇生の質になるはずさ」
最悪の場合はゾンビだけの村になるってことか、ぞっとしない話だ。
髑髏の目の奥で、青白い光が揺らめく。
エレナの目にそれと同じ光が宿った。
「うん、そうだねママ。お兄ちゃん達にもわかってもらわなきゃ」
エレナは虚ろ目で僕らに微笑む。
「死んじゃえば、みんな幸せになれるんだよ」
エレナを抱いたまま母親の体がメリメリバキバキと肥大化し、巨大な人魚のような姿になると、禍々しい雄叫びをあげた。




