42回目 この世の内の罪なき者に
近未来愚行を行ってもよいという権利が最も価値のある通貨として取引されるようになった時代。
個人から国の規模までそれをこぞって奪い合う日常があった。
環境汚染から犯罪まで、愚行権の所有数値に応じてすべてが許される。
その形式は人類が自らが起こしえる問題の解決をすべて放棄した事の表れでもあった。
その時代、人口増加により刑務所が喪失されていた。
犯罪者の更生は拘留中に脳に埋め込まれたチップのAI制御による人格矯正に置き換えられ、
それを利用して政府は愚行権を行使し国際的に合法として人体実験を行っていた。
それは行き詰った人類文明が次の一歩を踏み出すため、
かすかな希望をかけた次の技術革新のためのあがきでもあった。
斎灯はただの芸術家だったが思想犯として捕らえられ、AIによる思考の制御により
興味と感情が奪われ絵を描くことができなくなった。
なんとか抜け穴を見つけて絵を描けるようになろうともがく斎灯は、
デイトレードによる愚行権のかき集めを行い始める。
抜け穴に対する感情の発露により、AIで脳を支配された犯罪者達によって
一時社会は爆発的な隆盛を示し始める。
だがAIによって制御されない抜け穴が発見されると、
そこに本来行われるはずだった精神活動が局所化し、
犯罪者たちはいっせいに合法的な手段を用いるサイコパスと変貌していく。
斎灯は幸福を噛みしめていた、彼はようやく絵を描く方法を手に入れたのだ。
都市は狂った斎灯の思考の描く絵画の様相を構成していく。
斎灯は高層ビルの最上階からその様子をただ見つめほほ笑んでいた。




