41回目 あの街の支配者
少年はたわいのないただの学生のように振舞いながら彼女を一瞥する。
大人しく座っているだけに見える彼女吹雪佳寿美が能力者、この街の影の支配者だ。
他者が知覚していない自らの超能力で物を操り、
少しずつ街に起きている現象を自分の都合のいいように操っている。
問題なのは彼女の目だ、
恐らく千里眼のような能力を彼女は持ち合わせていない。
彼女を秘密裏に監視し分析する能力解析班の調査によると、
彼女の力は念動力だけ、しかしその力は視界の外、
意識できるはずのない場所の物にまで及んでいた。
転校生藤木那由太は政府のエージェントである。
医者に自分が年を取らない事を相談に行ったのがきっかけで、
政府に外堀をどんどん埋められてしまい、
半ば強制的に対能力者エージェントとして働かざる得なくされてしまった。
待遇はまぁまぁなため彼ももうあきらめている、
それに生涯学生生活を送り続けられるというのも割と悪くないと考えるようになっていた。
佳寿美は那由太の正体を突き止め彼に対して脅しをかけるが、
那由太も佳寿美の目について調べをつけており、
その仕組みを彼女の前で説明して見せた。
彼女は能力者であるとともに有能なシステム管理者を父に持つハッカーでもあった。
スマートフォンを使い独自開発したアプリを使って町中にある監視カメラをモニタリング、
あとはそこに彼女の能力で働きかけるだけ。
「それがわかったからってどうするっていうの」
そういう彼女に対して「アプリ開いてみろよ」という那由太。
彼女のハッキングに使う回線はすべて何らかのプロテクトで閉鎖されていた。
政府の抱える能力者が彼女のハッキングを防いでいるのだと那由太は言った、
「政府が必要としているのは支配力の奪還、
つまり君みたいなローカルの支配者を傘下に収める事だ」
「なんだか勧誘みたいな口ぶりだけど、嫌よ」
「じゃあ逆にこう考えてみたらどうだ、
お前にとって邪魔な奴を潰すのに俺たちを利用する。
ある程度功績を残したらその流れでお前も自由になる」
「上手い話に見せかけてとんだ詐欺師、まさかそれがあんたの能力だなんて言わないよね」
「俺の能力はこの見た目さ、こう見えて28なんだぜ俺」
「へぇ……いろんな能力者がいるんだ、そうね、会ってみたい能力者がいるの。
あんたがその能力者探しを個人的に請け負ってくれるなら引き受けてもいいよ、
他の街の能力者の縄張り潰しをさ」
「契約成立かな?」
「私は高いよおじさん」
那由太が手を差し出すと佳寿美は不敵な笑みを浮かべながらその手を叩くように握手した。
その街は佳寿美の居場所だった、
家にも人生にも居場所がなかった彼女は街を支配することで心の器を作ったのだ。
それを失わせ、ましてや他の支配者の居場所を奪う手伝いをさせる事が彼女に何をもたらすのか。
その時彼女が何を覚悟していたのか、那由太は知る由もなかったのだった。




