表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
408/873

403回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 207:氷雨(2)

「うわ、凄いな」


 購買に向かうとそこにはコンビニがあった。

 流石に自動ドア、全面ガラス張りではないものの、品揃えがこちらの世界に来る前とほとんど同じなのだ。


 ポテトチップス、コーラに、チョコ菓子、ガムやおつまみまで、突然突きつけられる土地を揺るがすような衝撃だった。


 混雑するであろう菓子パンなどは別口に店があり、そちらは学校内購買部といった雰囲気。

 朝方はそこまで人が来ないらしく、落ち着いて品物を見ることができるようだ。


「パンまで向こうのパンと同じだ、チーズ蒸しパンもある。ベイル気にいるかな」


 幸運なことに一つ残っていたチーズ蒸しパンを掴むと、僕の手をガッと掴む誰かの手が。


「えっ」


 その手から腕、腕から顔へと視線を移すと、そこには僕を見て驚愕する女の子の顔があった。


「なんだい君は、いきなり乙女の柔肌に触れるなんて」


 彼女はにこぉとしながらなんだか殺気立った雰囲気で僕を見る。


「君の方から触ってきたんじゃないか」


「言い訳は、男らしくないゾッ!」


 そう言って彼女は手を引くと、瞬時に左の回し蹴りで僕の顎を狙う。

 僕は左手の指二つでそれを止め、彼女は少し驚いたような顔をする。

 溜めのない蹴りだから、速度はともかく止めるのは難しくなかった。


「いきなり蹴るなんて乱暴だなぁ、そんなに欲しいなら言ってくれればいいのに」


 そう言いながら僕はチーズ蒸しパンを彼女に差し出した。

 すると彼女は蹴りであげていた足を下ろし、そのまま右足で僕の手を蹴った。


「いったぁッ」


 僕は右手を振りながら上を見た、チーズ蒸しパンは無事だが宙を舞っている。

 視線を落とすと彼女が人差し指を曲げて、かかってこいと挑発してきた。


「面倒だけど……」


 こういう手合いは相手をしないと付き纏われて後が大変だ、それなりに相手をして満足してもらおう。


 様子見に右拳を出す。

 対して彼女は左から顔を目掛けた蹴りを放つ。

 すかさず左腕でガード、感触がない。しまったと思った瞬間左脇腹に衝撃が走った。


 右足の二段蹴り、中段蹴りが入った。僕は体捌きで威力を削ぎ、半回転回って姿勢を入れ替え衝撃を逃す。


 すかさず左右からのコンビネーションキック、左蹴りに右手を添えて軌道をずらし、体捌きで交わし、右からの追い討ちはしゃがんで回避する。


 左ローキックが来る、体重がかかり守りが浅くなった左足を狙われ、僕はしゃがんだまま飛び上がってバク転、地面に手をついた瞬間、延髄を狙った右のローキックが迫った。


 両手で床を強く押して飛び上がりそれを交わして、立ち上がり構えたところに、彼女はすかさず右のこめかみ狙いのハイキックを繰り出そうとしていた。

 

 彼女の蹴りをこちらも右のハイで相殺、すかさず右足を引き軸回転しながらしゃがみ込み、右の後ろ回し蹴りで、彼女の膝の内側を撃ち姿勢を崩させる。


「あわっ!?わぁ!!」


「いけねっ」


 彼女がそのまま仰向けに倒れそうになり、僕は咄嗟に彼女を抱き抱えた。


「わぁ……」

 そう口にしながら、足癖の悪いお嬢さんは僕をじっと見た。


 ポスンと彼女の胸にチーズ蒸しパンが落ちる。


「危ないからこんな事しちゃダメだよ」


 僕はメッという感じで人差し指を立てて、彼女にそう言い聞かせると、一人で立てるように体を支えた。


「うん、わかったよ」


 彼女はそう言って僕にチーズ蒸しパンを差し出してきた。

 それに呼応するように、お腹が鳴って僕は思わず赤面した。


「いいの?」


 僕が尋ねると彼女はすぐにパンを僕に押し付け、至近距離で僕の顔を見上げた。


「ち、近いな」


 キス待ち距離って奴すぎて僕はドギマギする。

 彼女は僕を見たまま、なんだかうっとりしたような顔でため息をつくように僕に言った。


「君、とっても素敵だったよ……」


「うん?」


 彼女は僕をトンッと押して、羽根のように軽やかに後ろ向きで跳ねると、首を傾げて微笑んだ。


「またね、ボクの王子様!」


 そういって高らかに投げキッスをすると、彼女は嬉しそうに笑い声を上げながら、風のように走り去って行った。


「なんだったんだろう……」


「あんたエラいのに気に入られちまったねぇ」


 購買のおばちゃんは完全に視聴者モードでお茶まで飲んでいた。

 この手の騒動は慣れてるんだろうか。


 僕は他にもいくつかパンを見繕って、おばちゃんにお金を払うと、秘密基地に行ってみることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ