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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
406/873

401回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 205:ぼくらの秘密基地(4)

 ホールにつき、僕はその広さ、そして絢爛豪華な装飾の数々に圧倒される。


「雄馬ここ座れよ」


 そう言って陽介は、自分が座った隣の席を引いてシートをぽんぽんと叩いた。


「うん、ありがとう」


 椅子に座りながら、ついあちらこちらを眺めてしまう。


「こんなに広いと少し落ち着かないね、結婚披露宴みたいだ」


 この場にいる全員がプレイヤーなのだろうか?だとすると三百人くらいはいそうだ。


「料理もすごいよな」


 陽介が楽しそうにそういうと、すぐにメイドが食事を運んできた。

 たくさんのメイドさんが一糸乱れぬ動きで配膳していく。

 なんとなく彼女達の姿を目で追うと、やはりいるのは人間のメイドだけだった。


 所狭しと置かれた料理は古今東西のものが取り揃えられた豪華さで、こんなのを毎日食べられるの?といった感じ。


「どれもうんめぇだろ!?」

 ガツガツ食べながら陽介が話しかけてきた。


「格別だね!」


 教会には購買もあり、 読師(レクター) は忙しくて時間がない時そちらを使うことが多いと伊織が教えてくれた。

 それと一人で静かに食事したい人とかも、購買を利用するらしい。


「ビュッフェ行ってくる!」


「早いな!?」


 陽介がそそくさと席を立ってビュッフェコーナーに向かった。


 デザートはビュッフェ式、陽介が席にこだわった理由はそこだ。

 デザートが出た途端みんな一斉に立ち上がり、ビュッフェコーナーに殺到する。

 なまじ広いから遠くに座ったら余り物しか食べられなさそうだ。


「良く食べるわね」


 そういって伊織は僕をじっと見つめる。


「なんか顔についてる?」


「ううん、さっきの陽介の話……」


 なにかあったっけ。


「なにもないはずないのよ、普通は」


「なんの話?」


「朴念仁」


 そういうと伊織は僕にイーッとした。


「雄馬はにんじん苦手なの?」

 アリスが不思議そうな顔をして僕を見た。


「そういう事じゃない、かな?」


「アリスはにんじん食べられるよ」

 アリスは今こそ見せる時と言わんばかりに、フォークに刺したキャロットソテーを一口。

 もぐもぐごくんして僕に満面のドヤ顔をした。


「すごくない?褒めていいよ雄馬」


 誇らしげな顔をするアリスの可愛さに、僕はつい彼女をわしゃわしゃ撫でた。


「偉いねアリス、いっぱいなでなでしてあげよう」


「くるしゅうない、くるしゅうないぞよ」


「食わねえの?それ」

 陽介は山盛りのデザート皿を両腕に抱え、僕らにそれを配りながら言った。


「部屋にいるベイルにも食べて欲しくて」


「むぐむぐ、獣頭人?」


「ベイルはモンスターだよ、ハイエナの」


「へぇー獣頭人ならわかるけど、モンスター相手にいれこむなんて変わってるな。犬猫飼うのとはわけが違うんだぜ?」


「大切な友達なんだ」


「なるほどね、それならいいもんがあるぜ!」


 そう言うと、陽介はインベントリからタッパーを2つ取り出し、机の下で僕に手渡した。


「本当は食い物持ち帰るの禁止だから、バレないように気をつけろよな」


 陽介良い奴だな……。しみじみとそう思いながら、僕がタッパーを開けると、陽介は自分の皿の料理もいくつか入れてくれた。


「俺のこれもやるよ」


「ありがとう!」


「陽介嫌いな物押し付けて、良い人顔するのかっこわるい」


「こらっアリス余計なことを……押し付けたわけじゃないからな?」


 僕は陽介に苦笑いで答えると、タッパーに色々料理を入れ、もう一方にはデザートを入れ、あとはみんなと食事を楽しんだ。

 ベイルも気に入ってくれたら良いな。

 彼の反応を見るのが楽しみだ。


-

--

---


「というわけでお土産だよ、ベイル」


挿絵(By みてみん)


「おぉーっ凄え、食ったことない料理ばっかだ」


 タッパーを開けて見せると、ベイルは目を爛々と輝かせた。


「これ俺が全部食べて良いのか?本当に?」


 半信半疑で上目遣いに僕を見るベイルが、お預けをされてる犬みたいで可愛い。


「遠慮なくどうぞ」


「わぁっ!いただきます!!」


 ベイルはいろんな料理にフォークを突き刺しては口に運び、突き刺しては口に運びを繰り返した。


「慌てて食べなくても、誰も取らないから大丈夫だよ」


 僕はお茶を淹れた。


「ぬがっクッ!?」


「ベイル!?」


 ベイルは食べ物を喉に詰まらせ、胸をたたき出し、僕は彼の背中からお腹に両手を回して締めあげた。


「ケコッがはっ!はぁはぁ……死ぬかと思った」


「もー言わんこっちゃない」


 僕は苦笑しながら、ベイルにお茶を差し出す。

 彼はそれを飲みほし、人心地ついたようで、頬を緩ませた。


「うんめーなぁ、俺特にこれが気に入った」


 そう言って彼はフォークを突き立てたエビフライを僕に見せた。


「なんて料理なんだこれ?」


「エビフライだよ、エビがぶっとくて凄いよね」


「エビフライかぁ、衣のカリカリと、刻んだ具の入った白いソースがたまんなく合うな!」


「いいよね!気に入ってもらえてよかった」


「気になってたんだけどよぉ、こっちのタッパーと小袋はなんなんだ?」


 期待に胸を膨らませた様子で聞いてくるベイルがすごく可愛い、その顔が見たかった!

 内心そう叫びながら、僕はタッパーを手に取った。


「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました」


 ジャーンッ!と言いながら勢いよくタッパーを開けると、なんということでしょう、そこには彩り豊かないろんなスイーツ詰め合わせが。


「はわぁー……」


 ベイルはため息のような声をあげ、涎を垂らしてそれを見つめた。


「な、なぁ、雄馬。もしかしてこれも?」


「もちろん君のものだ!」


「ウォー!まじかよ!」


 そう言うとベイルは残りのおかずを平げ、タッパーを受け取り天高く掲げ、目を閉じて感動を噛み締めているようだった。


 フォークでまずケーキを一つほおばり、むほっと声を出して舌なめずり、次はマカロン、次は洋梨のタルトと口にしていく。


「俺が甘い物大好きだってよくわかったな!?」


「そりゃもう」


 屋台で買い食いした時に7割が甘味だったのだから、おのずとわかるというものである。


 二つのタッパーを空にして、ベイルは両手を合わせ、尻尾をパタパタさせながら、ごちそうさま!と言った。


 ベイルの一挙手一投足が可愛くて、抱きしめ撫で回したくなった。

 でも心底幸せそうな彼を見ていたくて、ぐっとがまんした。偉いぞ僕。


 ん?

 ベイルが僕を見ている、というか僕が手にしている小袋を見つめていた。


「こっちは明日でいいかと思ったけど、もしかしてまだ食べられる?」

 

「どんとこいだ!」


 ベイルはなぜか自慢げにそう言った。


 僕は袋を開けて、ベイルに手渡した。中身はもちろんポプラの手作りクッキーだ。


「これも美味そうだなぁ」


 そう言うと、ベイルは棚からコップを一つ取り出し、僕の前に置いた。


「え?」


「……言わせんなよ」


「なにを?」


「一緒に食べようぜ、ってことだよ」


 もごもごと照れ臭そうにベイルはそう言った。


「一緒に食べた方が美味しいだろ」


「うん、そうだね」


 僕は彼がそう言ってくれたのが嬉しかった。

 ティーポットで紅茶を淹れ、僕とベイルはお互い今日あったことを話し合いながら、クッキーを一緒に食べた。


 伊織や陽介アリスと一緒に食べた時も美味しかったけれど、こうして自室でベイルと二人きりで食べるのも、なんだか違う雰囲気で特別に美味しく感じる。


 どうしてだろう?

 ベイルを見つめて考えていると、彼は僕の口にクッキーを押し込んできた。


「はぐっ!?」


「へっへー、油断してるからだ。むごおっ!?」


 勝ち誇ろうとしたベイルにすかさず僕もやり返す。

 取っ組み合いになって、じゃれあいながら夜は更けていった。

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