400回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 204:ぼくらの秘密基地(3)
「俺とアリスの二人じゃ持て余してたから、やっぱこれくらい人数いた方がいいな」
「ここ知ってるのってもしかして僕らだけなの?」
「そうだぜ、俺たちだけの隠れ家ってやつだ」
「この教会を作る時に図面にない部屋を作って、何かに使ってたみたいなのよね」
「それがここなわけか、危険はないの?」
「何に使ってたの?って話ではあるわね。だけど今は使われてないし、ここは聖杖の混沌侵食の外だから。盗み聞きされるようなこともないしね」
聖杖は強力な 混沌構成物 だとは聞いていたけど、建物内の全てを知覚できるなんてとんでもない力だ。
「あっそういえば、伊織に渡すものがあるんだった」
「お熱いねぇ、指輪かいお兄さん」
「ちゃかさないでよ、私たちそういう仲じゃないんだから」
「そうかい?街の方で二人きり、何も起きないはずはないんじゃないのかい?」
伊織は無言でインベントリから巨大ハンマーを取り出し、陽介を狙い振り上げた。
「だぁーっ!?冗談!冗談だって!!」
「あった、これだ。はい伊織」
僕はダンジョンで拾った綺麗な石と、ゴブリンの牙を伊織に渡した。
「気が効くわね、ありがとう雄馬」
「知識ないから適当に持ってきたけど、使えそう?」
「良い感じ、さっき話したあれに使えると思う」
伊織は嬉しそうな顔で、石と牙を眺めた後、それらを光にして消滅させ、インベントリにしまった。
便利で良いなぁ、探す手間がないのが何より羨ましい。
「にしても美味しいなこのクッキー」
「上に乗ってるジャム、最高……ふふ」
クッキーを頬張る陽介とアリスを見て、僕はポプラのことを思い出す。
「ポプラが聞いたら喜ぶよ、ここで会えたらまた作ってもらおうかな」
「雄馬の家にいたメイドさん?」
「彼女教会に関わる仕事をしてるって言ってたんだ」
「へぇ可愛いの?」
「狐耳の半獣人ですごく可愛いし、いい子だよ。雄馬いつも鼻の下伸ばして話してたんだから」
「してない、と思うけどな。してた?」
「半獣人か……、個人的な趣味としてはめちゃくちゃ良いと思うけどな」
突然陽介が表情を曇らせる。
「なにかあるの?」
それがね、と伊織が話の続きをした。
「ここって獣頭人にエグいことしてるじゃない?半獣人と獣頭人って農場出身で血縁関係だったりする事があって、あまり教会で半獣人を雇ってるって話は聞いた事ないのよね」
たしかに自分の兄弟が勤め先でロボットみたいにされて働かされていたら、ショックなんてもんじゃないだろう。
「そういや俺もここで半獣人見た事ないな」
この状況はどういうことだろう?
ふとポプラが言っていた罪滅ぼしという言葉が脳裏によぎった。
「俺達に接触のないところで仕事してるとか?厨房とか、こんな美味しいの作れるんだしさ」
陽介が僕の表情を伺いながらそう言った、落胆が顔に出ていたのかもしれない。
気を使わせてしまったみたいだ。
「そうだね、案外近くにいるのかも」
「後で見に行ってみようぜ、ちょうど晩飯作るので人集まってるだろうし」
「今行ったら迷惑でしょ、行くなら食事後にしましょ。あとあるとしたら偉い人の専属で働いてる、って可能性かしらね」
アルヴの事だろうか、聞こうかと思ったが、伊織と二人きりの時の方がいいかもしれない。
伊織とアルヴとの接点には、触れてはいけない禁忌めいた雰囲気を感じる。
「そろそろ夕飯の時間だよ」
アリスが僕らに言う、僕らが彼女を見ると、ロビンが懐中時計を開けてみせた。
「おっといけねー、早く行かないと良い席取られちまう!行こうぜ雄馬!」
僕らは陽介につられて、小走りで晩餐ホールへと向かった。




