397回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 201:初めてのお仕事(5)
「危ない所を救われたらなんて言うんだった?」
「うん?」
「またでた、相手にする必要ないぞ雄馬」
「ほほーう、随分強気に出るじゃないか」
「お前が俺たち二人に偵察に行かせたルートで敵に囲まれたんだぞ、わざと敵に包囲される場所を選んだだろ」
「言いがかりはよしてくれないか?」
そう言いながら将冴は陽介の憤りを楽しむようにニヤリと笑っている。
「気に入らない奴にいつもそうして困らせてるだろうが」
不味いなと思った、陽介の語気が強くなっている。
おそらくそうなるように誘導して、あとで上に陽介に妨害されたとでも言うつもりだろう。
陽介の気持ちはわかるが、こうして揉めていても埒があかない。
「助けてくれてありがとう」
「おい、雄馬!こんな奴に礼なんていらねぇって」
「危ない所だったのは事実だったわけだし」
おそらく僕の実戦能力を測る目的半分、陽介は僕と親しく、かつ将冴に嫌われているということが原因で巻き込まれたと見るべきだ。
アリスはそんな状況を見かねて助けに来てくれたと言った所か、なんにせよ原因の一端は僕だ。
残り半分は陽介の言うように嫌がらせなんだろうけども。
「まぁ、来るタイミングだけは良かった」
陽介は不服そうながらも僕に合わせてくれた。
「死なれたりしたら困るからな、リーダーである俺の評価が下がってしまう」
「まったくですぜ、将冴さんを煩わせるなんて、足手纏いには困ったもんだ」
「あいつは?」
「ヤス、将冴の腰巾着だ」
「聞こえてるぞ三下ぁ……」
「お前に三下呼ばわりされる筋合いはねぇ!」
意外と怒りっぽいんだな陽介……。
その後無事にダンジョン内のモンスター騒動に成功した僕たちは、教会に帰ってくることができた。
祓魔師 としての一日の勤めが終わり、夕食までの空いた時間、僕は陽介とアリスに誘われ、教会内を歩いていた。
「おーい、雄馬ぁ!」
中庭を抜ける回廊を歩いていると、伊織が僕に声をかけ、手を振りながらこちらに走ってきた。
「伊織、無事だったんだ」
「それはこっちのセリフ」
伊織は僕の両足のナイフベルトを見て、察したような表情をして、陽介が肩を怒らせ不機嫌そうに歩いているのを見て苦笑いした。
「将冴の奴になんかされたわけね、私のナイフ役に立った?」
「もちろん!あと使ってて思いついたんだけど」
僕は伊織に思いついた道具の案を伝えた。
「なるほど、面白いかも。やってみる!」
楽しそうな伊織を見ると、僕も嬉しくなる。
付き合わせたからには楽しくやっていけるようにしたい。
「二人で楽しそうにしてるの、ずるい……」
アリスは拗ねた感じでそう言うと、僕の服の裾を引っ張った。
「ごめんアリス、仲間外れにしてたわけじゃないんだ」
「雄馬はアバター化できないから、私が話聞いて武器を作らなきゃなの」
「伊織は雄馬のこと好き?」
「なっなにを言うかと思えばこの子は!」
なぜか顔を赤くし、伊織は目を泳がせながらアリスの頭を乱雑に撫で、頭をがっくんがっくんとさせられながらアリスはうーっと抗議の声をあげていた。
「アリスは陽介のことが好きなの?」
「あ"ッ」
僕の言葉に伊織が妙な声を出して硬直した。
アリスの顔がどんどん赤くなっていく。
「嫌い、あんなやつ……」
「なるほどなるほど」
やはりアリスの陽介への態度は好きの裏返しだったらしい、小さな子が好きな子に意地悪したくなるあれだ。
「陽介は聞いてなかったか。あんたも結構デリカシーないわね……」
「えっ?」
アリスは突然地団駄を踏み、目尻に涙を溜めて赤い顔で僕を睨んだ。
「陽介嫌い!雄馬も嫌いッ!!」
そう言うと彼女は僕の脛を硬い木靴で思い切り蹴った。
「痛いッ!」
そして走り去りながら何故か陽介の足も蹴りつけ、アリスは走り去っていってしまった。
「イッテェっ!お、俺が何したって言うんだよぉ」
「ごめん陽介、僕のせいみたい」
「なにやってんだか、お二人さん、アリスに謝りに行くわよ」
呆れ顔をした伊織と共に、僕らはアリスの後を追った。




