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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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396回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 200:初めてのお仕事(4)

「ゲェッあれをやるつもりかよ」


 陽介のその言葉に、アリスが睨みつける。


「私は雄馬を守りに来たの、陽介は邪魔しないで」


「へーへー、雄馬、巻き込まれないように下がってた方がいいぜ」


「あれって?」


「見てりゃわかる」


 そう言って陽介が酸っぱいものを食べたような顔をした。僕の足元を白くてふわふわした何かが横切り、アリスに向かっていった。


 それはアリスが抱えていたぬいぐるみのうさぎだった。一人でに歩いてる!?


「出番到来だねアリス」


 そう言うと、うさぎはアリスの前に立った。

 さながら化け物から姫を守るナイトのように颯爽と。

 まぁ、ナイトと言うには小さくて可愛らしすぎるけど。


「お願いロビン」


 あのうさぎの名前はロビンというらしい。

 アリスの言葉とともに、ロビンはハンターケース式の懐中時計を取り出し、迫り来るオーガ達に向けてかざした。


「ティータイムの時間だ!」


 ロビンがそう叫びながら、懐中時計の竜頭を押して蓋を開くと、彼の前方の空間に異変が起きた。

 落下していた小石が止まり、飛んでいた蝙蝠が止まり、三体のオーガ達が動きを止めている。


「時間停止?」


「こっからだ」


 そう言って雄介は力一杯目を閉じる。


「チョキチョキ刻んで帽子屋さん」


 アリスがそういうと、ロビンが飛び上がって回転し、二回り大きな帽子屋のぬいぐるみに変わった。


「なぜなにどうして?帽子屋さんに大きなハサミ!」


 帽子屋は背負った身の丈ほどもある巨大なハサミを手に取り、疾走、壁や天井を跳びオーガに何度も近づいては、目にも止まらぬ速さでハサミを使う金属音を響かせる。


「できたよ、アリス!」


 そう叫び、帽子屋は壁を蹴ってアリスに飛び、胸で抱きとめられた。


「オーガ革のハンチング帽だぁ」


 帽子屋に差し出された黒い帽子のシルエットをアリスが受け取ると、時間が動き出した。


 オーガ達は皮膚を全て失い、全身バラバラに切り刻まれ、全身から血を吹き出して崩れ落ちる。

 それと同時にアリスが手にした帽子のシルエットが、オーガの皮膚と同じ、暗褐色のハンチング帽に変化した。


「ひぃー音だけでもエグいよー!」

 陽介が悲鳴をあげる。


「助けてくれてありがとう、アリス。不躾なんだけどジョブは幻想使い?」


 僕の質問にアリスはうなづき、ロビンは「見たか!ボクの力を!」とドヤ顔をしている。


「ロビンもありがとう、この世界だと触媒の人形が自分の意思を持って動くんだね」


 アリスはどうやらゲームに存在していた、幻想使いというジョブのプレイヤーのようだ。

 人形を武器として装備、それに幻想霊獣を憑依させて使役するジョブだ。


「陽介は……」


「キャストコール!フェアリーズキュア」


 陽介がそう言って、僕の右腕の擦り傷に手をかざす。

 彼の手から現れた暖かな光球に、ほのかに光を放つ妖精が現れ、僕の傷にキスをして消えた。


「おお、傷が消えた!」


「俺は召喚士!イケてるだろ?」


「キャスト時間長すぎて、後ろに隠れてないと力使えないのに?」


 容赦のないアリスのツッコミに、きらめきかけた陽介の表情が、しゅんっとしょぼくれる。

 感情がジェットコースターみたいなやつだなと僕は思わず笑う。


「それは俺のジョブのロールってやつがだなぁ……」


 言いかけた陽介の向こうに、銀色の輝きを見て、僕は彼の肩を引き寄せ、山刀を抜いて飛来した矢の軌道をずらす。


 僕に引っ張られ尻餅をついた陽介の股の間に矢が刺さり、陽介が「うわっ!?」と叫んだ。


「サンキュー雄馬、危なかったぁ」


「新手だ……、ゴブリンだけどすごい数だよ」


「大丈夫、来るよ」


「なにが来るの?」


 アリスは尋ねる僕の制服の裾と、陽介の耳を掴み、岩陰に僕らを誘導した。


「いだだだだ!痛えって、なんでいつも俺だけ扱い雑かなぁ」


 愚痴る陽介に苦笑いしながら岩陰に隠れると、今さっき僕らがいた所を業火が通過し、闇の奥にいた無数のゴブリンを焼いた。


「危なっ殺す気かよあいつ」


 僕は炎の出所を見た、陽介が気づいた通り、そこには将冴の姿があった。

 彼の魔法攻撃だったらしい。


「オォゥオオォッ!!」


 叫び声と重い足音を響かせながら、長さ3mほどの鉄塊のような剣を構え、処刑人の筋肉男がゴブリンの群れに突撃。

 剣を振り回し、ゴブリンの四肢と内臓の雨を降らせる。


 狐面の忍者が彼の後に続き、左右の敵に対してまきびしをばら撒き、印を結んで稲妻を放った。

 稲妻は忍者を中心にまきびしに向かって飛散し、ゴブリン達を黒焦げに焼いていく。


 次々と現れる 祓魔師(エクソシスト) 達が散開して、それぞれがテリトリーの拡大を図る。見事な連携だ。


「実習ね……」


 僕はその言い方の意味がようやくわかった。

 彼らの強さならば危うげなく乗り切れる敵戦力、この状況での評価基準は一個人の戦力より、判断力と連携能力だろう。


 特殊作戦部隊としての練度を向上させるための、機密訓練としてダンジョンとモンスターほど都合の良い存在はない。


 アバター化している限り、プレイヤー自身が傷つくことはなく、攻撃を受ければHPのゲージが減っていくだけ。


 HPゲージがなくなればその場で教会へと送還されるらしく、つまりアバター化できるプレイヤーであれば絶対に死ぬことのない戦いだ。


 攻撃の先端を切り、他の 祓魔師(エクソシスト) が走り回る中、全体が見渡せる場所で佇んでいる男。

 おそらく彼がこの集団の現状のリーダーなのだろう。


 将冴と目が合い、彼は勝ち誇ったような顔で僕を見下ろした。

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