395回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 199:初めてのお仕事(3)
「俺達は現場に出て戦う事を実習って言ってるんだ、聞いてないの?」
「聞いてないですね……」
「あちゃー」
僕と陽介は背中合わせになりながら、群がってくるゴブリンを仕留めていく。
陽介は槍を振り回し、長いリーチを利用して敵を仕留め、彼が仕損じ間合いを詰めてきた敵を、僕が山刀で斬り伏せていく。
「やるぅ。そんだけ戦えるなら、言う必要ないって思っちゃうかもなっ」
「心の準備させて欲しかったなぁ」
眼前の敵を仕留め陽介の方を見ると、彼の死角から敵が接近しているのが見えた。
「陽介ッ!」
ここからじゃ間に合わない、僕は伊織から受け取った煙幕ナイフを引き抜き、ゴブリンに投げつけた。
「なん……うわっぷ」
ゴブリンが盾でナイフを弾くと同時に、黒い煙幕が広がった。
僕は煙幕に飲み込まれかけた陽介の腕を掴み引っ張り出す。
煙幕の中でゴブリン達がギイッ!と叫びながら闇雲に剣を振っている。
今のやり取りで攻守のバランスが崩れ、ゴブリンが一斉に押し寄せ、僕らはその場から走って逃げた。
「雄馬、追ってくるぞ!」
「大丈夫、考えがあるから」
僕は急停止し、白いナイフを引き抜きながら背後に体を捻り、岩に向かってナイフを投げた。
岩にナイフがぶつかり火花が散り、煙幕に着火、爆発した。
「だぁあぁああ!?」
爆発の衝撃で陽介が吹っ飛ばされる中、僕は追っ手の動きを見る。
僕らに群がっていたゴブリン達が火だるまになり、悲鳴を上げながら転がる中、巨大な影があった。
体長5mほどありそうな、筋肉で膨れ上がった肉体を誇示した角の生えたゴブリンが、他のゴブリンを踏み殺しながらゆっくりとこちらに迫ってきた。
「わわわ、オーガだ!俺らじゃ太刀打ちできねえぞ!」
陽介はサポート的なジョブのようで、アバター化していても、現状能力を活かしきれてない。
アバター化できない僕の戦力も言わずもがな。
「やれるだけやってみる!」
僕はオーガの足元に黒ナイフを投げ、煙幕を展開。爆発させるがオーガは涼しい顔をして、歩いてくる。
「それなら」
僕は再びナイフを投げ煙幕を作ると、陽介と目くばせし二手に分かれて逃げた。
僕は陽介よりオーガに近いルートを走る。
煙幕の薄い場所から僕を視認したオーガが、僕に向かって手にした棍棒を振り下ろした。
「狙い通りッ」
僕は棍棒をかわしながら、黒ナイフを二本投げ、腕と胸に刺さったのを確認すると、瞬時に白ナイフを取り出し煙幕の中の岩に投げつけた。
煙幕の爆発、オーガは僕を見てニヤリと笑う、しかしその瞬間、オーガの腕が爆発してちぎれ飛び、次にオーガの胸が爆発して内臓を撒き散らした。
黒ナイフの中の可燃性煙幕の火力を集中して見舞う作戦は成功だ。
驚愕の顔をしたままオーガは仰向けに倒れ、絶命した。
「やった!すげえや雄馬!」
喜ぶ陽介を僕は片手をあげて制止した。
「待って、聞こえない?」
微かな音、だけど確かに聞こえた。
退路を探りながら、僕はその物音がした方、闇の奥を見つめる。
巨大な人影、オーガだ今度は三体。
黒ナイフは残り一つ、どう切り抜ける?
「私に任せて」
アリスはそう言いながら、僕らの前に姿を表した。




