40回目 正義の味方
波野正太郎は冴えない少年である。
生まれてこの方誰かのお荷物になっているという自覚しかなく、
もちろん他者からは疎まれ続けており、
自分のような使えない奴が生まれてきたのが間違いなのだから仕方ないと
諦めて生きている少年だった。
そんな彼を見て怪しく微笑む少年がいた。
彼は八剣湊、絶世の美男子。
生粋の日本人でありながら生まれつきの赤い髪と端整な顔立ち、
肌の透き通るような白さがまるで欧米人を思わせ、
成績も優秀、人当たりもよく人望も厚い、
完璧すぎる少年は欠点しかない少年を求めていた。
「俺は君のような生きる価値のない男を探していた」
湊は言葉の内容に反してあまりにも爽やかな笑顔で正太郎に手を差し出す。
世間では怪人騒ぎがまことしやかに囁かれており、
その怪人を殺す役目を正太郎に任せたいと湊は言った。
報酬は正太郎の望む現象を一つ起こす事。
半信半疑ではあったものの正太郎には守るべき自分の人生という物もなかったため、
彼はただ誰かに自分個人に興味を持ってもらえた事が嬉しいあまり安請け合いしてしまう。
ほんの少しちくりと痛むだけさ、そういってされた注射はまるで痛みを感じなかった。
正太郎は湊に指定された場所に現れた怪人を前にし、
注射の影響で超人化した身体能力を使いそれを殺すことに成功する。
湊に報酬はなににすると尋ねられ、
ふと明日テストなのにまったく勉強してなかった事を思い出した正太郎は、
テストの点数を求めた。
試験時間中正太郎は昨日殺した怪人の事を考えていた。
人類は遥か未来である人類会議を行い一つの結論を出した。
遠い未来の世界は人類による環境汚染によって地球は死の星になっていた、
生存するのは人類のみ、そして生きていけるのも地下のシェルターだけの状況。
人類は過去に戻り地球を死の惑星に変える前に人類を滅亡させる計画を発動する。
罪のない人間を咎にとわれずに殺す方法が一つだけあると湊は言った。
人類に対して脅威となれば、それは処刑の対象となると。
遺伝子作用によって時間差で発症する怪人化ウィルスを蔓延させた未来人は、
怪人化した人間を過去の人間に殺させていた。
正太郎が殺した怪人も恐らくは全く罪のないただの一般人なのだろう、
でも人類という悪を殺す正義の味方として正太郎は怪人を殺した。
ああなるほど、本当にそうだ。と正太郎は思った。
ほんの少し胸の奥で良心がちくりと痛んだ。
この程度の痛みですんでしまうほど彼は世界を憎んでいた事を知る。
湊は酷い奴だと正太郎は思う。
でもだからといってやめられるわけでもない自分はやはり生きていてはいけない人間なのだ。
そうわかっていても、
正太郎はようやく見つける事の出来た自分の存在意義を捨てることができなかった。
名前しか書けなかった白紙の答案は、返却されるとき89点の答案として戻ってきた。
自分の名前以外まったく別人の筆跡で間違いの部分まで一問残さず埋め尽くされた答案用紙。
正太郎は恐らく自分は幸せになるのだろうと思った、
こうした表面上の事はこれから全て怪人を殺すことで解決できるのだ。
遠い未来の人類が定めた正義の味方、
正太郎は自分の正しさはそれでいいと思う事にした。
彼には生まれつき何もなかった、
その何もない事の意味を彼はようやく得ることができたのだった。




