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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
千の夜と一話ずつのお話
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4回目 透明人間の憂鬱

青年はある朝目覚めると自分の姿が見えなくなっている事に気づいた。

仕方ないので会社を休み誰を頼ればいいのかわからないのと、

ちょうど診察を受ける予定のあった心療内科で話を聞く事にした。


病院の中でも透明人間を見る人見る人みんな驚いていた、

最初は少し有名人気分で楽しくもあったが、

だんだんマンネリというか、微妙に気味悪がられているのを察して青年は辛くなっていた。

医者も自分の姿を気味悪がりながら話すのだろうなと、

密室でそんな空気の中にいないといけない事を想像して肩を落として診察室に入る。


彼を見た医者の反応は普通に見て、観察し、特に感慨もなく「なるほど透明人間症候群ですね」

と言うとキーボードをタイプしてカルテになにかしら入力していた。


医者によると人が透明人間になるのはそう珍しい事でもないのだそうだった。

「いやいや先生、でも俺そんな人見た事も聞いた事も・・・」

「透明人間ですから?」

「あ、なるほど・・・」

そんなやりとりも交えながら、要点は

つまり今彼が透明人間になっているのは彼の心理状態に起因する物だという事。

そしてそれを解決するためには彼自身が気づいていない、

透明人間になってしまうほど耐えられない心の悩みを見つけて解決する事なのだと医者は言った。


それを聞いて彼は透明人間である事を生かしながら、

自分の悩みになっているであろう事をしらみつぶしに解決していくのだが、

一向に透明化が治る気配はない。


彼がほとほと困り果てていると町中で突然一人の女性が彼を呼び止めると

「やっぱり透明になってる!君山岸君でしょ?私小学校の頃同じクラスだった細川清美!私あなたの事ずっと探してたの」


戸惑っている彼の手を引いて細川と名乗った女性は喫茶店に入った。

そこでも好奇の目にさらされて彼が居心地の悪さを覚えていると、

彼女はまるでそんなそぶりを見せず、普通の人と応対しているかのように自分と話してくれて、

そんな彼女との一時にほっと癒される心地を彼は感じていた。


彼女の話によると、事の発端は小学校の時。

原因は恐らく彼女のある事件が起きた事からだという。

転校してきたばかりの彼女がいじめられ、

それをかばった山岸の友達にまでいじめが飛び火して、

結局山岸と細川が残り、彼の友達がイジメを苦に自殺してしまったのだ。


山岸は友達の葬式の時その弟から酷い言葉をかけられ、

それ以降山岸は他者と繋がりを持とうとしなくなり、

細川が何とかしようと働きかけても彼はそれは元々だと言い張るばかりでなにも解決できず。

後悔の念を抱えたまま親の都合で転校を余儀なくされた時、

カウンセラーの兄が話していた透明人間症候群に山岸がなる可能性が高いと感じ、

もしそうなった時に彼を助けられるように、透明人間症候群解決のエキスパートになる道を選んだのだと言った。

透明人間症候群は発症年齢がおおよそ決まっていて、

細川は山岸の所在を興信所で調べて会いに来たという。


山岸は自分がそんな悩みを抱えているとは思ってもいなかったが、

幼少期のひずみが影響を与えた生き方が、

年齢を経て見えない重圧を溜め込んでそれが決壊した結果だったのだとわかった。

山岸は自分が他者に関わると、その人物を不幸にしてしまう、という事が価値観にこびりつき、

他者との関わりを無意識に避け続け、それはついに透明人間になってしまいたいという心の叫びにまで発展してしまっていたのだった。


山岸は友人の家族に会い、かつてのいじめっ子達と話をして、友人の墓を訪れた。

友人の墓の前でかつて山岸に恨み事を言った友人の弟と出くわし、

彼の現状を滑稽だと笑いながら、そんなになるまで悩んでたんなら俺はもういいと言った。

弟は過去の自分はただ怒りのやり場が欲しかっただけなのだと打ち明けた、

いじめっ子達に向けるのも怖くて、謝罪してきた自分から弱い立場を選んだ山岸を

いわば自分がいじめる側に回る事で不安を解消したのだと。

そうでもしなければ今頃自分が透明になっていたかも知れず、

身代わりに透明にさせてしまって申し訳ないと、彼は山岸に謝罪した。


山岸は胸の奥につっかえていた何かが軽くなるのを感じていた、

しかし彼の透明な体はそのまま。

友人の弟の話を聞いて細川の自責を利用して居心地のいい彼女の善意を

受け取りっぱなしになっている事に気づいた彼は、

自分はもうこのままでいいからと、彼女に話す。


そういった彼に細川は山岸に会いに来た本当の理由を打ち明け始めた。

細川は山岸の事が好きだった、出会った時からずっと、ずっと好きだった。

だから今のこの状況を利用してるのは本当は自分なのだと。

そんな自分を許して欲しいとはいえないけど、

ただ役に立てて欲しいと彼女は言った。


帰りの電車の中、疲れて眠る彼女の頭が山岸の肩にのる。

夕陽に照らされた暖かなその寝顔を見つめて、

山岸は彼女の手を握る。


電車の走る音がゆっくりとリズムを刻むセピア色の情景の中、

そこには元の姿を取り戻した山岸と彼に寄り添う細川の姿があった。

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