393回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 197:初めてのお仕事(1)
目を覚ますと、目の前にベイルの顔があった。
寝息をたて、幸せそうな顔で寝ている。
「やっぱりベイルって可愛い」
僕はにんまりしながら、彼の頭を撫でる。
「ん……」
ベイルはなんだか恥ずかしそうな顔をした、誰かに夢の中で撫でられてるんだろうか。
ベイルのふかふかな胸毛に触れ、あまりの触り心地の良さにぎゅうと彼を抱きしめる。
「……おい」
「はぁ、ベイル可愛い……」
「……起きてるぞ」
「はうっ!?」
ベイルの言葉に驚き、急いで彼から離れようとして僕はベッドから落ち、頭を打った。
「いったぁ!」
「なにやってんだ、朝っぱらから」
ベイルはそんな僕を見て心底呆れたような顔をしながら、ベッドから降りると身支度をし始めた。
「雄馬」
ベイルが僕の制服を投げてよこす。
「ありがと」
お礼を言う僕を見つめた後、ベイルはふんっと鼻を鳴らして着替えを続けた。
僕らの着替えが終わる頃、また昨日と同じように伊織とラングレンが僕らを迎えにきた。
「おはよう伊織、ラングレンさん」
「おはよー雄馬、あとハイエナのお兄さんも元気?労働きつかったでしょ」
「ベイルだ!名前くらい覚えろ眼鏡人間」
「なにその古い特撮に出てきそうな呼び名!」
「まぁまぁ二人とも」
僕は二人を苦笑いでたしなめると、ラングレンの前に立った。
「ラングレンさん、ベイルのことよろしくお願いします」
「なぁ、雄馬。そいつに何言っても無駄だと思うぜ?」
そうかもしれない、だけど僕は彼に話しかけたかった。
理由はよくわからないけれど、彼のことが知りたいと、僕はなぜかそう思う。
あの手術で自我をなくしているとしても、毎日話しかけていたら、ある日突然なんてこともあるかもしれないし。
ラングレンはじっと僕を見つめた後、なにもいわずに踵を返し、部屋から出て行った。
彼の後を追ってベイルが続く。
「今日は昨日みたいな無様晒さねぇようにすっから」
僕の隣を通りながら、彼は僕にそう耳打ちした。
「僕はどっちでもいいよ、昨日楽しかったし」
「言ってろ、じゃあな」
「行ってらっしゃい」
ベイルとラングレンを見送ると、伊織が僕を見て言った。
「あんた本当にモンスター好きよね」
「可愛いし?」
「私にはわからない趣味だわ。まぁ人それぞれよね、それじゃ私たちも行きますか」
僕らは朝日が照らす回廊の中、講堂に向かい歩き出した。




