391回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 195:クロスヴァイン大聖堂(4)
扉を開いた瞬間、何かが風を割いて近づく音がして、僕は咄嗟に山刀を引き抜き、接近した何かを八つ、刀身で受け流し地面に落とした。
飛んできたのは手裏剣だった。
「雄馬!」
伊織の声に警戒すると、視界の一部が真っ赤になり光の塊が迫ってきていた。
「 大火球 !? 」
今からでは交わせない、僕は一か八か山刀を逆袈裟に斬り上げ、地面の手裏剣を火球に向けて飛ばした。
手裏剣と衝突した火球が爆発、爆風が迫る。
「きゃあ!」
悲鳴を上げた伊織の前に立ち熱波を防ぐ、肌が焼ける感覚はあったが火傷するほどじゃない。
僕はすぐに山刀を構えて講堂内を警戒した。
あたりを見回すと、祓魔師 の制服を着た人間が十数人ほど、落ち着いた様子で座っていた。
突然拍手が聞こえた。
そちらを見ると手前側に背の刀に手をかけ身構えた狐面の忍者、奥の方にタクトのような杖を手に拍手をする少年の姿があった。
「不意打ちの対応見事だったよ」
少年はそういうと腰に手をあて、気取ったポーズで見下すように僕を見た。
「手裏剣を弾かずに落としたのは講堂内の第三者を巻き添えにしないため。火球は物にあたれば爆発するゲームの仕様通りか試したんだろう?咄嗟の判断力、なかなかのものだ」
「 将冴 っ! あんたねぇ、雄馬がアバター化できないって知ってるでしょ。大怪我したらどうすんのよ!」
「おっとそういえばそんな事も言われていたかな?だがこの程度で怪我するなら、作戦に出たら死んでしまうだろ」
「ぬぐぐっ」
伊織は拳を握りしめ悔しそうに歯噛みした。
「アバター化できる僕らには関係ないけど、足手纏いは困るんだよねぇ」
「相変わらずムカつく!」
伊織が顔を真っ赤にして将冴を指差し地団駄を踏む横で、狐面の忍者が僕にぬるっと近づき、ねっとり舐め回すように僕を見た。
「な、なに?」
「今回は仕損じたが、次は殺す、コロス」
そういうと上に飛び、天井を見ると通気口から外に出ていくのが見えた。
「なんなの……」
「あいつはああいう奴だから気にしないで、俺は陽介。よろしく!」
僕に近づき人の良さそうな顔で陽介は僕に握手を求めた。
よかった、まともな人だ……。
「僕は雄馬、よろしく」
そう言って差し出された手を握ると、陽介はうううーっ!と唸り、潤んだ目を僕に向けた。
「ようやくまともな奴が来てくれた……ッ!」
「もしかして、やっぱりそういう環境?」
遠慮気味にそう尋ねると、陽介は力強くうなづいて見せた。
講堂の中にいる 祓魔師 の制服を着た人間たちは、処刑人の覆面を被った全身から湯気を出しているボディービルダーみたいな怪人や、隅っこでイヒヒヒヒヒィと笑い声を上げながら科学の実験をしている奇人、なんかずっと回っている人?まで、どう見てもまともな人がいない。
「ロールプレイ……転移してからやるかな?」
おかしなメンバーの中でまともな感じの、青いドレスと金髪と赤いリボン、胸にウサギのぬいぐるみを抱いた小さな女の子がこちらに歩いてきた。
この子もどこかおかしいんだろうか?
と思った瞬間、彼女は昔ながらの赤い木製靴で陽介のすねを思い切り蹴った。
「いっだあぁあぁあッ!?」
泣きべそをかきながら飛び跳ねる陽介、そそくさと伊織の後ろに隠れる女の子。
「俺が何したってんだよ!?」
「新人と仲良くなれるように、挨拶の練習を欠かさなかったアリスへの冒涜だ!」
アリスの抱いていたウサギのぬいぐるみが動き、陽介を指差しながら力強く糾弾した。
凄くイケメンなボイスだ、腹話術だろうか?
「第一印象大切なのに」
アリスは恨めしそうな顔で陽介を見た。
なるほど彼女は奇人変人の一人として、自分を先に紹介されてショックだったわけか。
「アリス、僕は雄馬。これからよろしくね」
僕は従兄弟の女の子をあやした時を思い出しながら、グッドな印象しか持ってないから大丈夫だよ、と態度で示しながら、笑顔で握手を求めた。
「よろしく」
小さくそういうと、彼女は僕にはにかみ笑いをした。
見た目の可愛さも相まって輝くような笑顔、練習の成果だろうか、とても可愛い。
アリスは戸惑いながら僕の小指に手を差し出して握り、僕らは小さな握手を交わした。
「よくできました」
伊織はアリスに笑いかけ、彼女の頭を撫でる。側から見てると姉妹のようにも見えた。
アリスは嬉しそうに目を細めた後、伊織を見つめて言った。
「ねぇ伊織、どうして急にいなくなったの?」
その言葉に伊織の手が止まり、彼女の表情が強張る。
彼女はアリスから視線を逸らし、片腕で自身の胸を抱き、講堂の中を見回して辛そうな目をした。
「伊織?」
アリスの声かけに、伊織は彼女を見て微笑む。
「やりたい事があって、それはここじゃできなかったの」
アリスにそう言うと伊織は僕に目配せした。僕がうなづくと、彼女は安心した表情を浮かべた。
伊織は前にここにいる人達が苦手だと話していた、それを内緒にしてほしいという事だろう。
人間関係は良好そうに見える、なのにあの時彼女にああ言わせたものはなにか。
いったいここで彼女に何があったんだろう。
気にはなるけれど、彼女が僕に話す気になるまで、僕は伊織をそっとしておくことにした。




