389回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 193:クロスヴァイン大聖堂(2)
「やめろって!一人で着替えできるから!」
「へーベイルは褌なんだ」
部屋に着くや僕はベイルの着替えを手伝うことにした。
ベイルは思春期の子供みたいに抵抗している。
「当たり前だろこれのが尻尾出すの楽なんだ」
変なことに驚くやつだなという表情で僕を見るベイル。
褌のお尻にくるあたりに切れ込みが入っていて、そこから尻尾を出す仕組みらしい。
「それはともかく離れろって」
同性に裸見られて恥ずかしがるなんて、なんだか可愛いなと思いながら、僕はベイルの服を次々剥ぎ取っていく。
「なんなんだよその手際の良さ、目つきが怖い、怖いから!」
「そうかなぁ?」
次は褌だ。
僕はワクワクする気持ちを抑えきれず、足元への注意を怠った。
「あっ」
「あ"ッ!?」
僕は床に散乱した彼の服につまづき、ベイルの方に倒れてしまった。
僕らは盛大に転んだ。
「あいたた……ごめん、大丈夫?」
「……ッ」
「ベイル?」
起き上がり眼前の彼を見ると、驚きに目を見開いていた。
今の状況をよく見てみると、僕がベイルをベッドに押し倒した形になっていた。
「わぉ……」
僕はベイルの細いながらも引き締まった体にドキッとした。
「お、おい、何すんだ」
戸惑うベイルの声、僕は悪戯半分で彼の脇から順番に、両腕、両手首を掴んで、その体を観察した。
「綺麗な体してるね」
「な……ッ!?」
顔を赤くしながらベイルが僕を見ていた。
あまり嫌がってないように見えるのは気のせいだろうか。
顔を近づけると、彼は少し恥ずかしそうに視線を逸らし、瞬きの後僕をじっと見つめた。
「なんだよ……?」
「キス待ち距離なのに意外と嫌がらないんだなって思って」
「なに言ってんだおめえ、男相手に」
一呼吸置いて、ベイルは続けた。
「ここに来てドキドキしすぎて麻痺しちまってるのかも、それにキスなんてしねぇよな?」
「人工呼吸はしたけどね」
「じんこー?」
「息が止まった人に呼吸戻す為に、口移しで息を吹き込むんだ」
「へー口移しで……口移し!?」
「救命措置だしキスではないから」
そう補足はしたものの、ベイルの顔は真っ赤になり、目がぐるぐると混乱していた。
「お、俺の初めてが……しかも人間……」
「なんかごめん……」
「謝んなよ……俺のこと助けようとしたんだろ」
「うん」
ずっと僕がベイルを押し倒し、キスするくらいの距離感のままだ。
この状態で僕らは何してるんだ?少し僕は冷静になった。
ベイルの顔を見ると、彼はしげしげと僕の顔を眺め、まるで続きはまだか?と言いたげな表情をしているように見えた。
なんか変な雰囲気だ、少し胸がドキドキする。
その時突然部屋の扉がバーンッと音を立てて開かれ、僕らはビクッとなって扉の方を見た。
「伊織!?」
そこには街にいるはずの伊織の姿があった。
なんで?どうして?
伊織が僕らの様子を見て目を丸くし、口を手で押さえながら壁に倒れ込んだ。
「雄馬……あんた」
「あっこれはそのふざけあってただけで」
伊織は泣きべそを浮かべ「馬鹿!」と叫んで出ていってしまった。
「ちょっ伊織!?待って!」
彼女を追いかけようとベイルから離れる。
でも今からじゃ初めて来たこの建物の中、追いつける気がしない。
「ふざけ半分ならこんなことすんなよ……」
「え?」
ベイルの言葉に驚き背後を見ると、彼はジトっと僕を恨めしそうに見られた後、不機嫌そうに着替えを続けはじめた。
「今のどういう意味?」
尋ねてもベイルはムスッとしたまま、僕に顔も合わせようとしない。
ブルーノ、僕はどうすればいいの?というかなんで伊織がここにいるの?と頭を抱えながら、僕の教会生活初日は終わったのだった。




