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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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388回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 192:クロスヴァイン大聖堂(1)

 荘厳な白亜の教会が近づくにつれ、その存在感に圧倒された。

 僕らの乗った馬車は門へと近づく。

 僕は巨大な生き物に飲み込まれる様な、不思議な緊張感を抱いていた。


 ポプラから渡された琥珀のダガーを取り出し握りしめる。


 門を潜る時、琥珀のダガーがにわかに光り、バチッと音をさせ、左腕に一瞬痛みが走った。


「……ッ」


「どうかしたか?」


「ううん、大丈夫だよ」


 今のはなんだったんだろう?


「おいおい……どえらく広いなあ」

 門の中の光景を見て、ベイルが感嘆の声を上げた。


 妙だ、と僕は思った。

 確かに外から見てもこの建物は巨大だったけれど、中の広さが外観と食い違っている様に見える。


「なぁ雄馬、ちょっと走ってきていいか?」

 うずうずソワソワした様子のベイルは、僕の返答を待たずに走り出した。


「だめだってば」

 そう言いながら僕はベイルの服の襟を掴んで彼を止めた。


「ようこそ、グロスヴァイン大霊堂へ」

 声をかけられ振り返ると、そこには全身に銀色の鎧、その上から白と赤の装飾をされた布を纏った騎士がいた。


「初めまして、案内を任されましたラングレンと申します」

 自らをラングレンと名乗り、フルメイル騎士は頭を下げた。

 なんだか抑揚のない機械のような喋り方だ。


 辺りを見回すと、ラングレンと同じ姿のフルメイルの騎士がそこかしこに警備で立っている。

 それに加え十数人の騎士たちが辺りを巡回していた。


 彼らの鎧で気になるのは、中身がどうもモンスターか、獣頭人であることだ。

 目の前を歩くラングレンの尻尾は虎の尻尾だった。


 彼に案内されるまま歩きながら騎士達を見る。

 どことなくみんな機械仕掛けのロボットの様に思えた。


 広場に近づき、怒号と悲鳴が聞こえた。

 何事かと様子を見ると、首輪のないモンスターと騎士が戦っていた。


「ここは訓練場です」


「訓練……これが?」


 訓練というよりは本気の殺し合いに見える。


 騎士の一撃でモンスターの顎が斬り落とされた。

 痛みを感じていないかの様に、モンスターは流れる様に動き、騎士の右脇の下に剣を滑り込ませ、腱を絶った。


 騎士は右手にあった剣を落としながらも、モンスターの腹部を蹴り、モンスターを吹き飛ばす。

 引いた足を使い、落下中の自らの剣を蹴り上げ、左手に剣を持つと、再度接近してきていたモンスターの腹部を切り裂く。


「ゲボッ」

 モンスターは赤黒い血を吐き、内臓をこぼれ落としながら、下から騎士の顎を狙い剣を突き上げる。


 モンスターの左肩に騎士が剣を突き刺し、そのまま体を引き裂き心臓を抉り取った。

 モンスターは全身を痙攣させながら騎士に倒れ込み、騎士の体を血で汚しながら地面に落ちた。


「が……ふ」

 騎士も顎から頭を貫かれ、兜の隙間から吐血すると、糸の切れた人形の様に地面に崩れ落ちた。

 

「おいおいぉぃ……」

 ベイルが呟きながら耳を伏せ、尻尾を股の間に巻いた。


 それ以外にも、丸太に括り付けられたり、十字架に磔にされたモンスターを、様々な武器を手にした騎士達が、穿ち、斬り裂き、殴りつけていた。


 モンスターの体を破壊する音と、猿轡をされたモンスター達の悲鳴と呻き声が響く。

 

 指導役と思しき騎士が手を挙げると攻撃が止まり、モンスターのグチャグチャにされた体が千切れて地面に落ち、傷から鼓動に合わせて血が吹き出す。

 猿轡をしたまま赤黒い血を吐き、虫の息になりながら、モンスター達は虚な目をしていた。


「ここでは効率的にモンスターを無力化する技術、致命場を与えられる攻撃方法の研究も行われています」


 ラングレンの説明の後、何かの駆動音の様な低い音が鳴り響いた。

 絶命したモンスターや騎士が弛緩し、傷が瞬時に再生して、何事もなかったかの様に立ち上がって、再び戦い始める。


 磔にされたモンスター達も体が再生し、恐怖に見開かれた目で騎士達を見ながら、口を塞がれたまま叫び声をあげて首を横に振る。


 涙を流すものまでいたが、指導官は手を振りおろし、再度騎士たちの攻撃が行われ、生々しい音が響き始めた。


「これ、どうなってるんですか?」


「訓練場には破壊物を逆再生して復元するオブジェクトが使われています。訓練中の事故や怪我も心配ありません、終わる時には全て元通りです」

 ラングレンは淡々と説明した。


「……そういう話じゃないんですよ」


「雄馬、やめろ」


 激昂しそうになっていた僕をベイルが嗜めた。


「お前が怒ったら全部台無しになる」

 ベイルは怯えながらも僕にそういって、腕を強く掴んだ。怖いはずなのに気を使わせてしまった。

 

「ありがとうベイル」

 僕は腕を掴むベイルの手を握り、ラングレンを見る。

 彼はじっと僕を見つめ、踵を返し歩き始める。

 彼は今何を考えていたんだろう、そう思いながら、僕はラングレンの後に続いた。


 次にたどり着いたのはガラス張りの手術室のような場所だった。


 手術用の椅子の様なものに拘束されたモンスターや獣頭人達が何人もいる。

 顔を白い布で隠した手術着の男達が、抵抗する彼らの顔を押さえつけ、その口の中に50cmくらいの長さで親指くらいの太さ、先端に銀色の何かが付いた針のようなものを突き刺していく。


「オッ……ガッァ……ッ」

 声にならない悲鳴をあげ、拘束された手足をばたつかせた後、獣人達の体から力が抜けて、ビクンビクンと体を痙攣させ始めた。


「うわぁっ」

 ベイルが僕にしがみつき震えだした。僕はベイルの肩を強く抱いた。


 獣人達は黒目を上に向けて涙と涎を垂らし、全身を痙攣させていたが、針が引き抜かれると痙攣が止まり、意識を失ったのか全員目を見開いたままうなだれていた。

 

 彼らを拘束していた器具が外され、騎士達に鎧を着せられ、騎士の兜を被せられると、すぐに彼らは他の騎士達と同じように働き始めた。


「ここではモンスターや獣頭人に祝福を授けるために、聖成されたミスリル銀を脳に埋め込んでいます」


「祝福?」

「聖王様のバクルスによる祝福です、奴隷契約の首輪に使われているものと同じものですね」


「オブジェクトが使われてるって話だったけど……」

「聖成されたミスリルは人工的なオブジェクトといったところです。バクルスは非常に強力な 混沌構成物(カオスオブジェクト) です、その分身の様な物ですから」


 契約の時に聞こえた声は聖王の声だったのだろうか?


「聖成されたミスリルは全て聖杖バクルスに通じています」

 ラングレンは僕の内心を悟ったかの様にそう言った。


「ベイル、大丈夫?」

 小声で尋ねると、彼は目に涙を溜めながら小さく首を横に振り、僕をぎゅっと抱きしめた。


 震えているベイルの肩を強く掴む、彼にこんなことさせられない。

 僕らをラングレンが見た。


「プレイヤーのお連れ様でしたら大丈夫ですよ。ここにいるのは不法に捨てられた野良や、正規ルートで廃棄処理になったモンスターや獣頭人ですから」


 彼はこちらに手を差し出した。


「お望みでしたら処理いたしますが」

「結構です」

 僕はベイルを僕の影に隠しながらそう言った。


「それでは残りは明日にして、貴方の部屋に案内します」


 そう言うとラングレンは歩き出した。僕たちも後に続いて歩く。

 ラングレンもあんな目にあってこうなったなら、少し気の毒だと思った。

 本来の彼は一体どんな人だったんだろう。


「雄馬、なぁ雄馬」


 小さな声で僕を呼び、泣きそうな顔をしながらベイルが僕の服を引っ張った。


「どうかした?」


「少しちびった……」


 あんな惨状を立て続けに見れば無理もない。


「うん、部屋に着いたら着替えよう」

 僕は彼が気にしないように頭を撫でる。


「だから、子供扱いすんなって……」


 顔を赤くし、もにょもにょとそう言いながらも、ベイルは部屋に着くまで僕のそばを離れなかった。

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