表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
391/873

386回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 190:テンペスト、聖王領メルクリウス(20)

 翌日の早朝。

 僕は庭でトレーニングをすることにした。


「ポプラ、お願い」

「いきますよー」


 ポプラが割れた皿の欠片を一つ投げる。

 僕は山刀を斬り降ろし、砕く。


 次は二つ、上段斬りから横薙ぎに振り砕いた。


 ポプラが小さく微笑み、五つ欠片を投げた。


 同時に五つ、でも距離の違いがある。

 突きで一つ、そこから袈裟斬りで二つ目。一歩踏み込み跳ね上げて三つ目。


 次の欠片は二つ同時だ。

 右に振り抜き四つ目、山刀を手の中で回転させ逆手に持ち、左に振りながら体を翻し剣先で五つ目を砕く。


 刃が空を裂く音が朝の静寂に響き、風が吹き始める。


「お見事です」

 ポプラが拍手をしてくれた。


 この山刀を初めて持ったとき、手が柄に吸い付くようにしっくりきた。

 ワリスと戦ったときのあの感覚、それに今の動きだって、初めてやってみたのに体の筋肉や筋の使い方が自然とでてきた。


 僕の様子をじっとポプラが見つめていた。

 いつもの僕を見るのとはなにか違う目のような気がした。

 静かな微笑みなのに、どこか寂しげなそれは。罪悪感のような。ポプラが、僕に?


「次いきますよー」

「うわっそんなに!?」


 ポプラは手にしていた陶片を一斉に放り投げた。

 転んで尻餅をついた僕を見て、ポプラは楽しそうに笑う。


「ひどいよポプラぁ」

 そんな彼女を見て僕も笑った。

 今日で三日目、住み慣れたこの家、この街、そしてポプラともお別れだ。


-

--

---


「巡回は危ないからついてこなくてもいいよ?」

「なにいってんだ、お前に何かあったら意味ねえだろ」


 守者(ポーター) として、この街での最後の巡回。

 ベイルがどうしても一緒にやると言って聞かず、僕は困っていた。


「見てなぁ、大活躍するぜ!?俺に任せとけってんだ!」


 ベイルの張り切り具合が空回りしていて僕は苦笑した。

 本人がやる気なのに水を差すのも可哀想かもしれない。

 別行動でトラブルに巻き込まれるといけないし、僕はベイルと一緒に回ることにした。


 今日が最後だから、街並みを見ながらいつもよりゆっくり歩く。

 短い間だったけれど、それでも思い入れある街並みを見て、僕は感傷に浸っていた。


 人通りが多くなると、ベイルが僕の背中に隠れてビクビクし始めた。

 まだ襲われたのがトラウマらしい、殺されかけたんだものね。


 僕の左腕にしがみついているベイルの頭を撫でる。

 彼は小声で子供扱いすんなと呟き、顔を赤くしむくれっつらをした。

 でも気持ちは満更でもないらしく、尻尾がゆったりと振られていた。


 いつもの巡回の最後に、僕は獣頭人の酒場へ向かった。ブルーノやみんなにお別れしたかったからだ。


「あれ?」

 酒場に入ると誰もいなかった。

 食事時の今時分には獣頭人やモンスターでごった返しているはずなのに。


「今日お休みなのかな……」

 店の照明まで消えて、薄暗い廃墟のようになっている酒場の中を歩き、いつも僕が座る椅子に座った。

 隣にはいつもブルーノが座る椅子がある。


「会いたかったな……ブルーノ」

 そう呟きながら、彼の椅子に触れると、突然明かりがついて、僕は顔を上げた。


「「「サプラーイズ!」」」

 みんながそう叫んで物陰から飛び出してきた。


「へっへへー驚いてる驚いてる」


 キョトンとしていた僕を見て、獣頭人の一人が満足げにそう言った。

 みんな満面の笑みを浮かべている。


 ドスンと音をさせて隣にブルーノが座り、カウンターからひょっこりマレーが顔を出した。

 ベイルは驚いて白目を剥き泡を吹きながらひっくり返っている。


「俺たちなりのお前へのお別れ会を開くことにしたんだ」

「とっておきの隠し芸みせてやんよ!」

「楽しんでいってくれよな」

 口々に獣頭人やモンスター達が僕に声をかけ、ブルーノは僕の頭を撫で、優しく微笑んだ。


 みんなが思い思いに出し物を披露してくれて、その後木の実や、鳥の干し肉、拾った小銭など、彼らにとって貴重なはずの物をたくさん貰った。


 みんなの気持ちに胸が暖かくなる。

 僕をこんなに受け入れてくれていたんだと、そう実感させてくれる事が嬉しかった。


 最後にブルーノから、木彫りのブルーノ像を貰った。


「これって」

「むっやっぱり自分の像贈るのって変か?」


 ブルーノは巨体をもじもじさせ、顔を真っ赤にして恥ずかしがった。

 頭から湯気も上がっている。


 木彫り像は拳大のサイズで、妙にクオリティが高く、何故かワイルドなポーズのブルーノが鮭を咥えた姿が彫られていた。


「可愛いしすごく嬉しい。ありがとうブルーノ」

「おっ?そうか?へへへ……頑張った甲斐があったな」

 

 彼は照れくさそうに自分の頭を撫でながら、デレっとした表情をした。

 木彫り像も可愛いが、今のブルーノも最高に可愛くて、思わず抱きしめたくなった。


「これを見れば俺の事忘れないでいてくれるよな?」


 ブルーノのその言葉に、耐えきれず僕はブルーノを抱きしめる。


「忘れるわけないよ、ブルーノもみんなの事も」


 僕は酒場のみんなの姿を見て、心を込めて言葉を口にした。


「みんな、ありがとう!」


 みんなの温かい拍手が酒場に響く。

 僕は涙を拭いながら、今日のことをずっと忘れないでいようと心に誓った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ