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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
千の夜と一話ずつのお話
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39回目 フォーリッジクラスタ

沢渡望は生活困窮者である。

それなりに食いそれなりに眠りそれなりのものを着さえすれば、

おそらくそれなりの好青年風にでっち上げる事が出来るであろう彼も、

今はその生活水準に相応しいしょぼくれ具合で紙切れ一枚を手にある場所に向かっていた。


政府が施行した新しい社会保障による生活困窮者のためのシェルターが彼の目的地である。

犬にはドッグトレーナーがいて、トレーナーにより躾けられた犬がそれなりになるように、

人間にもトレーナーをつければそれなりになるのでは?

という実に大雑把な法案により実行された胡散臭い施設ではあったが、

沢渡望はあえて行くのであった。

というか行かざるを得ない、彼の全財産は80円なのである、

このままでは餓死は免れないのであった。


ところがどっこいそのシェルター、なかなかどうして快適なアパルトメント。

前時代的に言うところの寮であった。

冷暖房も旧式ながら完備、風呂はないものの近所に銭湯、

洗濯物は気立てのいい寮の管理者のお姉さんが行ってくれるほか、

食堂に行けばTVすらあるという至れり尽くせり。

そして望になにより嬉しいのは一日三食ついてくる、

それが無料、無料なのである。

絶対におかしいのである、間違いなく何らかの罠が潜んでいるに違いなかった。

だが空腹の望には目の前の食料にしか意識が向かわない、彼はいつもそうだ、

実に哀れな男であった。


棲み始めて数日もするとその環境に少し慣れ始め、

やもすると粗が見え始めるのは人心の常と言う物。

根っからの小物人生を送ってきた望にそれを避けるなど到底無理な事、

やはりいろんなことが気になり始めた。


隣の部屋のロックミュージックがうるさいとか、廊下に出るとどこからかお香の匂いがするとか、

夜中に部屋の外の廊下がきしんで怖いなどいろいろと気になったのだが、

一番気になったのがそれぞれの住人が一つの部屋に一人で暮らしている事だった。

ミサイルでも撃ち抜けそうにない心の壁をほこる女子高生の比留間ヱミ子ですら、

家族を伴わず一人暮らし、鈍い望もさすがに気づく、これはなにやら怪しい気配だ。


そんなことに気づくなんて自分は凄い奴なのかもしれない……、

そうドヤ顔で決めポーズをしながら望はうぬぼれていた。

その安い自己満足は5分後に打ち砕かれる。

「退居、ですか」

どうしてもしなきゃだめですか?と口をもごもごさせる望に、

管理人と言う名の女性トレーナーは申し訳なさげにうなづく。


その後愚かな望がなんとか管理人さんに自分をここに残して貰おうと画策した結果、

知らなくてよい情報を掴む結果になってしまう。


実はそのシェルターは一般の人間が入る場所ではなかった。

住民はみな自分がそれと気づいていない超能力者なのだ。

俗にいうイヤボーンが起きないように監視するのが管理人さんの本当の役目なのだという。


もちろんそんな情報を望だけでつかめるはずがなく、

あくまで生存戦略とちょっとだけのラッキースケベを期待だけしていた望が陰謀に巻き込まれた原因には

遊び人風の居住者のおじさん功刀虎鉄の暗躍があった。


虎鉄は元国家スパイであり、自らの超能力の電磁波操作特性についても自覚していた。

電磁波を使った周囲の状況把握、

データ改変や消去が彼の能力が起こす「フュージエフェクト」と呼ばれる現象を彼は使いこなし、

管理人さんはそんな彼に対して笑顔のまま警戒していた。

虎鉄は管理人さんみたいに超能力を持たないままそれに渡り合えるくらい鍛え上げられた人間の方が

よっぽど恐ろしいと彼女を憐れむように言う。


真実を知ってしまった望をそのまま野放しにというわけにもいかず、

望は管理人さんの補佐という名の監視下に入り、

虎鉄の計画通り酒飲み友達として付き合う事に。


寮の中には日常的に住民たちが無自覚に能力で引き起こしている超常現象が発生し、

寮の外での生活でもあれやらこれやらのトラブルが続発する中、

望は一昔前のラブコメゲームのような生活を送っていくのだった。

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