383回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 187:テンペスト、聖王領メルクリウス(17)
その後家に帰った僕はベイルの様子を見た。
熱でも出たのか額に濡れ布巾を乗せ、苦しそうに唸っている。
布巾に触れると生ぬるくなっていたので、僕は布巾を近くに置いてあった水入れに浸し、軽く絞って彼の額に乗せた。
「おかえりなさい雄馬くん」
「ただいまポプラ、ベイルの看病ありがとう。これお礼に」
僕は帰り道に買った、洋梨のタルトの入った紙袋をポプラに手渡した。
「わぁ良い香り。晩御飯の後に一緒に食べましょう」
ポプラの嬉しそうな顔を見て少し気持ちが和らいだ。
「元気ありませんね、なにかありましたか?」
「わかる?」
「雄馬くんの考えてることはいつも顔に書いてありますから」
相談に乗りますよ、そういって彼女は微笑む。
僕はポケットから奴隷契約の首輪を取り出した。
「これは……」
ポプラは少し驚き、神妙な面持ちになった。
「 祓魔師 になるには、やっぱり奴隷を連れてなきゃいけないらしくて」
ポプラは真剣な顔をして僕を見た。
「霧の魔獣対策部隊の件ですね」
「うん」
今の僕の表情を見て、ポプラは何を思うだろう。
「私がなっても良いですよ」
「え?」
ポプラはそう言って首輪に指を触れる。
「雄馬くんなら、いいです」
彼女は冗談を言っているわけじゃなさそうだった。
人権を認められている方ではあっても、半獣人の奴隷も認められている。
ポプラと一緒に行けば教会にも入れるだろう。だけど。
「ごめん、それだけはできない」
僕は首輪を彼女から奪うように手に取り、握りしめた。
彼女のそういう所が、いつも僕を悲しい気持ちにさせる。
「ポプラ、自分をもっと大切にして」
「優しすぎますよ、雄馬くんは」
優しいとかじゃないんだけどな。
その気持ちが出ていたのか、ポプラは僕の顔を見て困ったように笑った。
「晩御飯冷めちゃいますね、とりあえず食べちゃいましょうか」
「そうだね、お腹いっぱいになれば、何か良い考えも浮かぶかも」
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寝たふりをしながら二人の会話を聞いていたベイルは、気づかれないよううっすらと目を開け、雄馬達を見た。
「奴隷契約の首輪……ねぇ」
そうひとりごち、彼は目を閉じると再び眠りについた。




