375回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 179:テンペスト、聖王領メルクリウス(9)
「しっかりしてベイル!意識はある?」
彼が心配で声をかけると、ベイルは倒れたまま「なんでもねぇ……話しかけんな」と答えた。
「酷い傷じゃないか、ほっとけないよ」
僕がそういうと、ぐぅうッと腹の虫が鳴る音がした。ベイルから聞こえる。
よく見ると彼の顔がだんだん赤くなっていくのがわかった。
恥ずかしがってるの少し可愛いなと思いながら、僕は出店に向かい、ジャンボホットドッグを買って戻ってきた。
匂いに気づいたのか、彼はガバッと体を起こし、涎を垂らしながら僕を睨みつけた。
「はいどうぞ」
ホットドッグを差し出す、しかし彼は顔をしかめ「人間の施しなんざ受けねえ!」と弱々しく叫びそっぽを向いた。
「そう、それじゃ遠慮なく」
「えっ」
ベイルは僕の言葉にショックを受けたように僕を見つめ、ホットドッグを一口齧る僕を見ながら「あっ……あっ……」とよだれを大量に流しながら悲しそうな顔をした。
「んーここのホットドッグは絶品だなぁ、でももうお腹いっぱいだ」
僕はそう言ってホットドッグを包み紙で包み直すと、ベイルのそばの木箱の上においた。
「お行儀悪いけどここに捨てちゃおっと」
そう呟くと、ベイルは眼前に置かれたホットドッグを凝視し、ちらっと僕を一瞥すると、ホットドッグに飛びつき貪り食い始めた。
短い尻尾をブンブン振って、わかりやすいくらい幸せそうな顔をして食べる彼が可愛くて、頭を撫でたくてウズウズする。
ベイルがじとっとこちらを見て、僕ははっと我に返る。
「……礼なんて言わねぇからな」
「なんの事?僕は食べ残しを捨てただけだよ」
ベイルはホットドッグを咥えて、グルルッと唸ると、複雑そうな表情をして走り去った。
「あっ待ってベイル、そんな傷じゃまた誰かに捕まっちゃうよ」
僕は彼を追いかけて走り始めた。




