374回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 178:テンペスト、聖王領メルクリウス(8)
翌日、僕は巡回をしながら霧の魔獣の発生箇所の確認をしていた。
霧の魔獣はあくまで迷いこむだけの存在だ。
海の魚が浜辺に打ち上げられるように、突然都心部に魚が打ち上げられる事がないように。
なのにあの個体は街中に現れた。
なにか嫌な感じがする。
何者かの作為が昨日の事件に関与している、そんな予感があった。
僕は昨日別れ際に伊織から受け取った 赤い霧の剣 を左手で引き抜き、空を裂いた。
伊織がプレイヤースキルを用いず、純然とした鍛冶の技巧を自力で身につけ、作り出した武器。
彼女を彼女たらしめている情熱の結晶。
「山刀に比べると少し重いな」
右手で山刀を引き抜き、二刀の構えで振り回す。
アバター化出来ない代わりに僕には記憶がある、プレイヤーキャラクターの動きの記憶を真似て体を動かしてみる。
「霧の魔獣相手ならなんとか戦えそうだ」
この武器の重さは彼女の技術の未熟さのせいじゃない、彼女の気持ちの重さなんだと僕は思う。
だからこの武器で戦えるように僕があわせる。この武器を使った戦い方を僕が見つけ出す。
そうすればこの武器はみんなが使えるようになるはずだ。
「うっ……うぅ……」
「ん?」
物陰から呻き声が聞こえて見に行くと、ハイエナ獣人が倒れているのを見つけた。
「ベイル?」
昨日出会ったベイルがそこにいた。
誰かにリンチされたらしく、全身がボロボロだった。




