370回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 174:テンペスト、聖王領メルクリウス(4)
「たのもーッ!!」
バーンッ!と景気のいい音で酒場のスイングドアを開けて入ってきた人間に、その場にいた獣頭人達が注目する。
「誰かと思えばお前か、扉はゆっくり開けろって何度もいっとるじゃろ」
酒場のマスターをしている、バクの頭のマレーはあきれ顔で言った。
「お前じゃないですー、伊織さんですー。いい加減覚えろよなおじいちゃん」
「おじ……ッ」
マレーは伊織の言葉にショックを受け白目をむいて固まった。
モンスターや獣頭人の年齢は人間から見ると少しわかりにくいけれど、僕から見てもマレーは初老くらいかなと思う。
伊織は丸眼鏡におさげの黒髪、胸はちょっと控えめな女の子、服装は僕と同じ 侍祭 の制服を着ている。彼女は 読師 であるため鎧が黒色だ。
伊織はきょろきょろと店の中を見回しながら、大きな声でみんなに尋ねる。
「ねぇ誰かうちの雄馬見なかった?」
「ゆう坊ならこっちにいるぞ」
ブルーノの言葉に僕は慌てて涙でくしゃくしゃの顔を袖で拭って、立ち上がった。
「あーっやっぱりここにいたんだ、あんたブルーノのおっちゃんの事ほんと好きね」
「今日はいろいろあったんだよ」
「はいはい、ごめんねおっちゃん、うちの雄馬が迷惑かけて」
「んにゃ、迷惑なんて思ってねえよ。ゆう坊は息子みたいで可愛いからな」
そういうとブルーノは僕の肩を掴んで引き寄せた。
彼にそう言われるとなんだか嬉しくて、僕は思わず目を細めてしまう。
「おっちゃんは少し人が良すぎるのよね……。ねぇ集合時間に遅れると怒られるんじゃない?」
「あっそうだった」
守門 は巡回が終わったら所定の時間に集合することになっている。
今の 守門 の総括をしているのは助祭のズロイ。癖の強いおじさんで怒らせると面倒な人だ。
それに彼はブルーノの主人でもある。彼のところにいて遅れたなんて知れたらそれこそ迷惑をかけてしまう。
「ブルーノいろいろありがとう、僕もう行くね!」
「おう、気をつけてなゆう坊」
「ほら急ぐ、ハリーハリー!」
伊織が僕をせかすように走るポーズで地団太を踏んで見せる。
僕らは酒場を出ると、守門 の集合場所へと急いだ。




