表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
373/873

369回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 173:テンペスト、聖王領メルクリウス(3)

「う……うーん」

「あっ目を覚ました、大丈夫?」


 酒場のテーブルに寝かされていたハイエナ獣人の男は、寝ぼけた目で僕を見ると素っ頓狂な声を上げた。

「ひっヒィッ!人間だぁ!!」

 

 ハイエナ獣人は慌てて逃げようとテーブルと一緒に盛大に転んで落ち、頭をしたたかに打ち付けた。

「いつつ……痛ぇ、ハッ人間っ」

 涙目で頭を抑えたかと思ったら、ハイエナ獣人は四つ足で器用に酒場の隅まで走り、体を丸めて震えだした。

「人間は嫌だ人間は嫌だ人間は嫌だ人間は嫌だ……」

 繰り返し呟いてる彼に困ったなと僕が頭を掻いていると、巨漢の牛獣人ブルーノが僕に話しかけてきた。


「あいつちょっと前からテンペストに連れてこられたんだけどな、異常に人間を嫌がるもんだから買い手がつかなくて、ここに捨てられたのよ」

「……そういう事情だったんだ」

 

 奴隷として商品にならず、この区域に捨てられる。

 この区域には獣の頭をした人間やモンスターの死体は珍しくない。

 つまり殺処分に近い扱いを彼はされたらしい。


「たしか名前はベイルっつったかな。奴隷狩りに発見されたときも餓死寸前だったとかで、ちょっと不安定みてえなんだ」

 そう言ってブルーノは悪く思わないでやってくれよ?と言いたげに僕の目を見る。僕は彼に微笑んで頷く。


「おいベイル、お前が怖がってる人間はお前の命の恩人だぞ。礼の一つでも言ったらどうだ」

 その言葉を聞いてベイルの震えが止まり、彼は恐る恐る僕を見る。


「お、俺を襲った奴じゃねえな。でも人間が、俺を、助けた?」

 言葉を口にしながら、なにか重要なことに気づいていくように彼は顔を青くしていく。


「いやいやいや、嘘だろ!そんなわけねえ!!」

 彼は突然立ち上がり声を荒げてブルーノに反論した。

「嘘もクソもただの事実だ、ゆう坊はお人好しだからな」


 ブルーノの言葉を無視するようにベイルは僕に向かって真っ直ぐに歩き、僕の胸ぐらを掴む。

「嘘だって言えッ!!」

 彼が僕にそう叫ぶと、ブルーノがベイルの横っ面を殴り彼を吹き飛ばした。


「わぁブルーノ!?彼死にかけてたんだよ?」

「言ってわからない奴には拳骨が一番だ」


 ベイルが頬を押えながら体を起こすのを見て、僕はほっと一安心した。


「人間は……俺の親父を殺した、従兄弟も仲間もみんな殺したんだ」

 ベイルは暗い顔でそう言うと、憎しみのこもった目で僕を見た。


「うっ……」

 彼を見ていたら頭が痛くなり、僕は頭を抑え俯いた。

 僕には関係のない話のはずなのに。酷く自己嫌悪に陥っているような嫌な気分だ。


 ブルーノが僕の肩を掴み、僕をベイルから隠すように前に出た。

 彼の大きな背中を見ていると、なんだか落ち着いてくる。

 僕は彼の背中に額をつけた。


「ベイルよ、俺はお前のことを深くは知らねえ、他人事だからあえて突っぱねた事言うんだけどな。

 てめぇのそれはちょいと身勝手じゃねえか?」

「なんだと?」

「お前らはなんのために戦争に行った?

 殺すために行った、殺されても仕方ねえと覚悟の上で行ったんだろ。

 ならよぉ、生き延びたてめえが勝手に相手を恨むのは筋違いだよなぁ」

「ぐッ」


 痛いところをつかれた、そんな感じでベイルは言葉をつまらせる。

 なぜかその時僕は、彼がなんであんな態度をとるのか少しだけ理解できた気がした。

 仲間を守れなかった自責の念、それに耐えきれず、誰かのせいにしたかったのだろう。


「今のてめえが一番死んだ連中を冒涜してんじゃねえのか」

 ブルーノの言葉はベイルだけじゃなく、僕の心にも深く刺さった。

 僕がブルーノにこんな言葉を言わせている、ベイルの心の傷をえぐるような言葉を。僕を守るために。


「ゆう坊はおめぇを助けただけだ、他はなんもしてねえ、知りもしねえんだ。

 だから恨むのはやめてくれや、俺らには大事な仲間なんでな」

 ブルーノのその言葉を聞いて堪えきれなくなった僕は、彼の背中に顔を押しつけて理由もわからず泣いた。


「ゆう坊……」

 ブルーノは肩越しに僕を見ると、僕の頭を優しく撫でてくれた。


「なんだよ……」

 僕らの様子をみて動揺したのだろうか、ベイルの震えた声が聞こえる。


「お、俺は謝らねえ。謝んねえからな!!」

「おい、待てベイル!」


 ベイルは酒場から走り去って行ってしまった。


「ごめんねブルーノ……」

「お前は悪くねえよ、ゆう坊。誰も悪くなんてねえ」


 ブルーノは僕を撫でながら、ベイルの走り去っていった方角を見る。

 その首には奴隷がつける、隷従の首輪が鈍く光っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ