367回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 171:テンペスト、聖王領メルクリウス(1)
「あっ雄馬君おはようございます」
「おはようポプラ、今日も朝からお疲れ様」
外に出ると、僕のメイドのポプラが掃除をしていた。
彼女はモンスターと人間の混血で、彼女の場合はその特徴が狐耳とふかふかの尻尾という形で現れている。
モノトーンのメイド服に狐耳と尻尾が物凄くマッチしていて、正直僕なんかには不釣り合いな上等すぎるメイドさんだと思う。
「どうかしましたか?」
彼女を思わずじっと見つめてしまっていた僕を、ポプラは不思議そうな顔でのぞき込み優しく微笑む。
「お仕事緊張されてるんですか?まだ初めて一ヶ月ですもんね」
「仕事の方はそんなに、あのさポプラ」
「はい、なんでしょう」
頼み事なら何でも任せろという雰囲気で、ポプラは胸に手を置き僕を真っ直ぐに見つめた。
「無理に僕の家で仕事する必要ないからね?」
僕のその言葉にポプラははうっ!?と声をあげ、全身と顔面を使って激しく動揺をあらわにした。
「わ、わわわ、私なにかやらかしましたか?」
「あっいやその、そういう事じゃなくて。ポプラみたいな立派なメイドさんに仕事して貰えるほど、僕は立派じゃないから。なんか君に悪い気がして」
ああ、なんだそんなことか。そんな雰囲気でポプラはほっと胸をなで下ろし、包容力のある暖かな微笑みを浮かべた。
「お気になさらないでください、私が雄馬君のところで仕事したいって言い出したことですから」
「僕が侍祭新人だからって理由?」
「はい、全く違う文化で暮らすのは、はじめはとっても大変でしょう?だからです。気にせず私になんでも仰ってくださいね」
それだけが理由にしては彼女の仕事ぶりは妙に気合いが入りすぎているように思える。そんなことを考えているのを見透かされたのか、彼女は口を開いた。
「私がプレイヤー、侍祭の皆さんのお世話をしているのは、罪滅ぼしみたいなものなんです」
まだ一ヶ月しか一緒に暮らしていないのに、ポプラは僕の扱い方をよく理解しているようだった。
僕は他人のデリケートな部分に触れるのは少し苦手だ、傷つけたり関係を壊すのが怖い。
ポプラは優しくて良い子で、僕は彼女の事が好きだった。だから嫌われたくなくてこれ以上はなにも聞けなくなる。
実際踏み込んで話を聞いたとして、彼女がそれを嫌がったり、僕を嫌ったりすることはないだろうけれど。
「ずるいなぁポプラは」
「お詫びに今日の晩ご飯は、雄馬君の好物のミートパイにしますから」
両手をあわせて顔を少し傾けて、ごめんねのポーズ。
彼女に可愛い仕草をされると何でも許したくなる、ポプラは魔性のメイドさんだなと僕は思った。




