361回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 165:命の脈動、心と記憶(2)
『ジョッシュ大丈夫、前にも同じようなことがあった。元に戻せる!』
僕はパットの言葉に我に返り、迫ってきていたグレッグの鉈を回避した。
「そうですね、ですが今回は少々事情が異なります」
頭の中に話しかけてきたパットの言葉が、黒服の紳士には何故か聞こえていたらしい。
グレッグの鉈の連続斬撃を山刀で受け流し、震脚、崩拳。グレッグの鳩尾に入り彼の動きが止まる。
グレッグが横に鉈を振りかぶる、僕は彼の胸を蹴り付け、グレッグの横凪の一撃をバク宙でかわしながら距離を離した。
「ここにいる黒騎士の二人の力で、グレッグ君の記憶を消し、余分な感情を消して私たちの忠実な操り人形にさせてもらいましたからね」
そう言うと彼はグレッグに近づき、荒い呼吸で涎を垂らし殺意に歪んだ顔をした彼の頭を撫でる。
「飼い犬のようなものです、こうしてみるとモンスターも可愛いですね」
「ふざけるなッ!!」
ドルフが叫んだ、彼は凄まじい形相で黒服の紳士を睨んでいる。
「ふーむ、逆鱗に触れてしまいましたか。空気が悪くなってしまいますね。早急に用事を済ませてしまいましょう」
彼がグレッグの背中に触れると、グレッグの左手から黒い肉塊が現れもう一本の鉈を形成した。
黒服の紳士はグレッグの耳元に顔を近づけ彼を殺しなさい。と命令する。
その言葉と同時にグレッグは雄叫びをあげ、僕に向かって突進してきた。
「待ってグレッグ、僕だよ。わからないの?」
グレッグの猛攻を凌ぎながら僕は彼に問いかける。わずかにでも彼を救う可能性を探るために。だけどグレッグに僕の声は届かない。
山刀を弾かれ足払いをされ、ガラ空きになった僕の腹部に彼の回し蹴りが入った。
「あっ……ガッ」
吹き飛ばされ壁に激突し、僕は地面に倒れた。
「立ち上がらなきゃ、グレッグにわかってもらうんだ」
今までうけたどんな攻撃より痛くて、悲しくて、僕は涙が出そうだった。でも必死に堪え、グレッグがくれた山刀を構える。
僕が戦うことの意味の全てが目の前にある。
殺されるわけにはいかない、殺すのだって絶対に嫌だ。だからこその勝利を、死に物狂いで掴まなければならない。
僕はこの手でグレッグを倒す。
そう決意して、僕は迫りくるグレッグに向けて走り出した。




