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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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360回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 164:命の脈動、心と記憶(1)

 黒い肉塊の化け物は、数歩歩き、突如爆発的に速度を上げこちらに迫ってきた。

 右腕を伸ばし黒い肉塊で形成した大きな鉈でこちらに斬りかかってくる。


「くうッ!」


 山刀を鉈に添えて、そのまま受け流し、右脇の下に左肘で裡門頂肘を見舞う。

 硬い、筋肉のつきにくい場所だというのに、丸太を打ったような衝撃で弾き飛ばされた。


 姿勢を整えようと顔を上げると、化け物の返し刃による鉈の第二撃が迫っていた。

 避けきれない!そう思って目を閉じた瞬間、金属がぶつかり合う激しい音が響く。

 目を開けると、目の前には盾を構えたマックスの姿が。


「ゲブッ……ッ!」


 マックスが大量の吐血をし、兜から血が溢れ出た。


「マックス!」


 仰向けに倒れる彼を抱き止める。目からも血を流し、白目を剥いて彼は虫の息で痙攣していた。


「無理に動くと死ぬにゃ」


「うるせえッ!」


 そう叫びながら、迫ってきていた鉈の第三撃を飛び込んできたドルフがブレードアローで弾き、矢を三発放ち、化け物の目に一発命中、化け物は顔を抑えながら壁に激突した。


「武器の攻撃なら通るな、だったら殺せる」


 そう言ったドルフも身体を弛緩させ、全身から血を吹き出した。


「言わんこっちゃないにゃ、大人しく見てるにゃ」


「ドルフ、ごめん。あとは僕がなんとかするから」


「余計なお世話だぜ……」


 僕はマックスを床に寝かせ、ドルフの前に出る。

 ドルフは吐き出しそうな血を歯を食いしばって耐え、頭からの流血で血まみれの顔をしていた。

 僕は二人の症状を軽くするため紅玉の腕輪で毒の自壊性を強化し、山刀を構える。


「パット、あれを使うよ」


 そう言うと紅玉の腕輪が輝く。

 下段に山刀を構え、再びこちらに迫る化け物相手にタイミングを図る。


「今だッ!」


 こちらの攻撃の間合いに入り、僕は山刀を逆袈裟に斬りあげる。

 ギャギキィッと空気と山刀が摩擦を起こし、空中に火花を散らせ、高圧縮した酸素に引火し、爆炎を纏った斬撃が化け物を捕らえ、斬り裂く。


「ゴァッグアァギャアアア!」


 全身が燃え上がり化け物の絶叫が轟く。


「これで終わって!」


 僕が左拳で化け物を殴ると、紅玉の腕輪が眩しく輝き化け物の体の可燃性を瞬時に強化、化け物の体が爆発した。

 戦いはこれで終わったかに思えた。


「なんで……」


 僕は目の前の光景を見て硬直していた。

 焼け落ちていく黒い肉の塊の中から現れたのは、紛れもない本物のグレッグだったのだ。

 その表情は醜く、憎悪に歪んだ獣の顔をしていた。

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