357回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 161:魔境へと至る道(6)
グレッグを追いかけて都市の中を走る。
彼は歩いているだけなのに、僕がいくら走っても彼に追いつくことができない。
だけどなんとかその後を追うことはできていた。
グレッグは角を曲がって裏路地に入っていく。その表情はあたりが暗くてよくわからなかったけれど、僕は横顔を見て間違いなくグレッグだと確信する。
全速力で角を曲がるために、僕は飛び上がり壁を蹴って、角を曲がりながら壁を走った。
「グレッグ!待って!!」
裏路地の向こうに少し開けた空間があった。グレッグに僕の声が届いたのか、彼はその空間の真ん中に立つと、そこで足を止めた。
「グレッグ、僕ずっと君に会いたかったんだ」
僕はそう言いながら、彼に近づき肩に手を伸ばす。僕の手が触れかけた瞬間、グレッグの姿が崩れて黒い肉塊に変わった。
「……ッ!?」
周囲から無数の足音が聞こえ、振り返ると。僕の今いる場所に繋がる全ての道から、何体も人の形をした黒い肉塊が集まってきていた。
「やはり来ましたね」
死角から誰かが僕に声をかけてきた。声の主の方を見ると、そこにはあの時の黒服の紳士と、黒騎士。そしてもう一人、小さな背丈の、フルメイルの黒騎士がもう一人いた。
「え?」
僕は小さな黒騎士の背後にある尻尾を見て驚愕した。僕の見間違いじゃなければ、あの尻尾は。
「一つお尋ねしたいのですが」
黒服の紳士が僕に声をかけ、左手を上に向けてこちらに差し出してきた。
「君にはこれが見える、そう思って構いませんね?」
彼がそう言うと、差し出された手から無数の細かな蠢く肉塊が生まれ、山となって地面に落ちていく。
黒い肉塊は追い詰められた人や、自分を見失った人が、自覚なく生み出してしまうもののはずなのに。
目の前の男は当然の様にそれを、自分の意思で際限なく生み出せる様だった。
この場に集まった人型の肉塊たちも彼の後ろに集合していく。
「それはなんなんだ、あんたは一体」
僕がそう言うと、彼は狂気を孕んだ笑みを浮かべた。
「素晴らしい!やはり君は混沌との親和性が高いようだ」
彼はそう言うと両手を広げ、実に実にと何度も口にしながら、その場で回転しつづけた。
ひたと回転を止め、見た者誰もが彼を信用してしまう様な、完璧な笑顔で僕を見つめると。彼は再び素晴らしいと口にした。




