356回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 160:魔境へと至る道(5)
すっかり外が暗くなり、板で打ち付けられた窓の隙間から外を見ると、都市の中に出ていた霧は血のように赤く変わっていた。夜闇の中でもわかる色、霧自体が鈍く発光しているように見える。
「霧の魔獣かぁ、この先そういうのとも戦わなきゃいけないのかな」
グレッグの隣にいるために強くなると決めた、どんな相手でも戦える準備が必要だ。
不定形な物でも干渉できる紅玉の腕輪を使えば、なんらかの対抗ができるかもしれない。
「ジョッシュ、あなたの分ですよ」
声をかけられ振り向くと、マックスが優しい目をして、湯気のたつ白いシチューの入った器を僕に差し出していた。
「わぁ美味しそう、ありがとうマックス」
リガーとマックスがしていたのは厳密には料理ではなく、茹でるとシチューになる固形携帯食を茹でていたらしい。
それでも細かな具材がいろいろ入っているし、言われなきゃ携帯食だとはわからないようなクオリティだ。
「なぁジョッシュこれ意外といけるぜ」
ドルフはそう僕に言いながら上機嫌でシチューを匙ですくっては口にしていた。
リガーは掬った一杯を一生懸命ふーふーしながら、ハフハフと食べている。
僕はそれを見てあることを閃いて、シチューを食べ終わるとドルフの隣に座った。
人心地ついた様子で毛布にくるまりうとうとしていたドルフの耳に、息をフーッと吹きかけてみる。
ドルフは息をかけられた耳をパタパタして、僕に嫌そうな顔をした。僕はさらに彼の耳に息を吹きかける。
ドルフはそんな僕に呆れた顔をして、毛布を頭まで被って寝たふりをし始めた。
「ドルフ可愛いなぁ」
僕がそう言うと、ドルフの尻尾が少し揺れた。
ふと、窓の外に人影が歩いていくのが見えた。
僕は2階に登り、人影が通り過ぎた方角の窓から外を覗き見る。
「……ッ」
僕は目を疑った。赤い霧の中をグレッグが歩き去っていくのが見えたのだ。
この霧の中にはクリーチャーが出るらしい、もし本物だとしても、違う誰かだとしても外にいるのは危険だ。
1階に駆け降りると、疲れていたのかみんな眠りに落ちていた。
起こしてしまうのも気が咎める、それに引き止められたら後を追えない。
「ごめん、みんな。すぐ戻ってくるから」
僕は琥珀のダガーを使い窓に打ち付けられた木を朽ち果てさせ外に出ると、すぐに窓を木の根で封鎖し、振り返らずに走る。
もしあの人影がグレッグなら、また彼に会えるかもしれない。話だってできる。
「ねぇグレッグ、あれから僕に友達ができたよ。話したい事が沢山あるんだ」
またあの日々のように、彼と一緒にいられるかもしれない。そう思うと僕はいてもたってもいられなかった。




