353回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 157:魔境へと至る道(2)
テンペスト捜索のために訪れた都市で、僕らは目の前の光景に目を疑った。
「死んでるのか?住民全員」
ドルフが武器を構え、警戒しながら言った。
街の異常事態に、僕らは馬車にはブロードヘインに帰ってもらい。連れてきていた僕らの馬を門の側の馬繋場につなぎ、都市の中を探索することにした。
琥珀のダガーで生命力を探る、その都市に人間の生命力はないようだった。
死体はまだ新しく、そこらじゅうに転がっていた。僕は死体の一つに近づくと死因を探る。
目立った外傷はない、毒薬にしても死に方に妙に生活感があった。
椅子に座って語り合うような状態、店の営業をしていたような状態、買い物の途中で倒れている親子もいた。
その誰もが張り付いたような笑顔で死んでいる。
「ジョッシュ、あんま不用意に近づくな」
そう言ってドルフは僕に布切れを差し出してきた。彼の口と鼻も布切れを結んで隠してある、感染症の可能性、それもある。
僕は布切れを受け取り口と鼻をそれで覆いで、死体の周りを調べると、気になるものを見つけた。
「これは、宝石?」
それは紫色に輝く宝石のようだった。よく見てみると、どの死体の側にも同じ宝石が転がっている。
僕は宝石を一つ拾い上げ、ポーチの中に入れた。
「今のところ手がかりはこれだけか」
『紅玉の腕輪の力を使ってみたらどうだい』
「物質の指定した性質を強める力だよね、この状況で役に立つの?」
『ボクが無駄なことを君に提案したことなんてないだろ?この辺りで一番高い場所で試そう』
「高い場所か……あの見張り台の上なんて良さそうだ」
見張り台の扉は固く閉ざされている。
僕は近くの木に三角跳びをして、民家の屋根に飛び乗ると、屋根伝いに見張り台に近づき、見張り台の梯子に飛びついて、屋根の上まで登り街を見下ろした。
『紅玉の腕輪を前にかざして』
パットに言われた通りにすると、紅玉の腕輪が光を宿し始めた。
『力のコントロールはボクがするから、君は意識を集中するんだ』
「集中って何に対して?」
『この都市全体に耳を傾ける感じさ』
抽象的だなぁと僕は無茶振り感を感じながらも、目を閉じて、都市全体に意識を集中した。
紅玉の腕輪が脈打つような感覚、それに呼応するように、僕の感覚が波打つように都市全体に広がっていくのを感じた。
「わわっなにこれ、変な感じ」
『集中!』
「はーい」
意識を集中して、都市に耳を傾けるように。
そう心がけていると小さな無数の声が聞こえ始めた。でも生きてる人なんていなかったはずだ。
『聞こえてるかい?残留思念を強化したんだ』
「残留思念って、そんなことできるの!?」
『リックのお兄さんの葛藤と苦しみが、塔に炎の形で残っていたでしょ?もしかしてと思ってやってみたんだ』
「凄いな……だけど、なんだかいろいろ言ってて、雑踏みたいで聞き取りにくいや。なんとかできる?」
『簡単な質問ならこちらの問いかけに答えてくれるはずだよ』
マジか!?と驚きながらも、僕は残留思念達に問いかけてみることにした。




