350回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 154:時の花咲くこの街で(5)
「これでよし、と」
人気のない教会の側の花畑の中、マックスは磨き上げたディアナ公国兵の兜を、最後の一人の頭に被せた。
新品同然になった鎧を身に纏ったディアナ公国兵が整列している。その様子を見て、マックスは目を細めた。
「こうしているとみんなあの頃みたいですね」
まるで生きてるみたいだと、そう思い、彼は込み上げてくる感情を押し殺した。
「よう」
マックスは声をかけられそちらを見た、そこにはドルマの姿があった。
「ようやく終わったのか、寝てないだろお前、大丈夫なのか?」
「自分ができる事はこれくらいですから」
ジョッシュにオブジェクトの所有権が移ったものの、ディアナ公国兵を元に戻すことは不可能だった。
領主の行使が止まったことによって、彼らがいつただの死体になるのかもわからない。
マックスは彼らの葬式の代わりに鎧を磨き、別れを済ませておこうと考えたのだった。
「この都市の人々は救われました、もう誰も不安な夜を過ごす事はないでしょう。みんなが守ってくれたおかげです。自分は同じディアナ公国兵として、みんなを誇りに思います」
親しかった人、戦場での恩がある人、悩みを聞いてくれた人。目の前にいる人たちと自分との思い出が脳裏によぎり、耐えきれず彼は涙を流した。
万感の思いを胸に、マックスは言葉を紡ぐ。
「長い間……お疲れ様でした」
彼の言葉とともに、ディアナ公国兵達の体が一斉にかすかな光を帯びて、小さな光の粒子になって消え始めた。
「……ッ!」
マックスは眼前の光景に目を疑った。ディアナ公国兵達全員が、マックスに向かって敬礼したのだ。
マックスは止めどなく流れる涙をそのままに、笑顔で仲間に敬礼を返し、消滅しきるまで彼らを見つめ続けた。
ディアナ公国兵達であった光の粒子が天に昇り、混沌の渦へと向かっていく。
「ゆっくり休んで、いつか帰ってきてください。待ってますから」
そう言うとマックスはドルマと共にその場を後にする。
風が吹き、一面の青い花が彼の背中を見守るように静かに揺れていた。




