348回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 152:時の花咲くこの街で(3)
「絶技って、ドルフが境界を飛び越えてきたあれ?モンスターにしか使えないんじゃないの?」
『この世界の人間種として生まれてきた存在には使えない、だけど君はプレイヤーだ、それがなにか関係しているのか……』
僕はあの時のことを思い返してみる。
僕の背後に巨大な鳥の姿に収束した炎、そして脈動するように光る紅玉の腕輪。その二つが繋がっているような感覚があって、僕は琥珀のダガーを使うように、意識の中で紅玉の腕輪のトリガーを引いた。
「あの時はこのオブジェクトを媒体に、あの力が出てたような」
『魔王もデモンズロードを使う時にオブジェクトをそれぞれ使っていた、恐らく混沌になにかしらの接触をする必要があるんだ』
「魔王軍に気づかれたら面倒なことになりそう?」
『七獣将は魔王の絶技を知っている可能性が高い、どう動くか見えない以上、無闇に使うのは避けた方がいいだろうね』
うーんと僕が唸っていると、勢いよく扉が開かれ、大柄な虎獣人がそこに立っていた。顔には満面の笑みと白い歯が光っている。
「来たぜッ!邪魔するぜッ!」
「わわわ、声大きすぎるよドルフ。早く入って」
僕がそう言うとドルフは応ッ!と言いながらのっしのっし部屋に入ってきた。
さっきより毛並みが良く、なんだか少し香水のようないい匂いがした。この後大切な人にでも会いにいくのかな?
部屋の扉を僕が閉じると、ドルフはなにやらあたりを伺い、耳を澄ましている。
「なにしてるの?」
「なぁジョッシュ、この部屋俺とお前二人だけだよな?」
「あー」
恋のお悩み相談的なやつだろうか、映画で見たことあるぞ。
パットの事はどうしようかと考えていたら、彼は耳を塞いでるからお構いなくと僕に言った。
怪しい、知的好奇心が強そうな彼が聞いていないはずがないのだが、僕は仲間の言う言葉を信じることにした。
「僕とドルフの二人だけだよ」
遠慮なく僕に聞いてくれ我が友よ、役に立つかどうかはわからないけど。
「今日の俺、自分で言うのもなんだけどすげえ頑張ったと思うんだ」
うんうんと言いながら僕はうなづく。
「だからなんかご褒美くれよ」
恋の相談じゃないのか、チェッと思いながらも僕は答える。
「うん、勿論!なにがいい?」
「ん」
と言いながらドルフは僕に、頭を差し出してきた。
「え?」
僕が彼の意図がわからず戸惑っていると、ドルフは少し赤い顔で困ったように上目遣いをした。
「察しが悪いなぁ……言わせんなよ恥ずかしい……」
この状況で彼が喜びそうなことというと、僕は少し記憶をたどり、ドルフの家に泊まった時のことを思い出した。
「ああ、なるほど」
「ほら、早くしろ」
僕は本当に恥ずかしそうな彼を少し笑いながら、頭を撫で始めた。
「あーこれこれ、なんでこんなに気持ちいいのかな……」
ドルフが喉をゴロゴロ鳴らし始めて猫みたいだなと思った。
「ドルフの毛皮って意外とふかふかで触り心地いいよね、暖かいし」
「まぁな、こう見えて毛皮の手入れ毎日欠かさないからよ」
彼はそういうと体を起こし、体を誇示するようにマッスルポーズを取ってみせた。
彼の筋肉にまだ少しこげがるとはいえ、黄色と黒の毛並みの美しさが映えていて、たしかにそういう目で彼を見てみると綺麗だと思えた。
にしても堂の入ったドヤ顔で僕を見つめるので思わず吹き出しそうになる。
「じゃあさ、次は一緒の布団で寝るとかもいいか?」
「なんで!?」
そう言うとドルフは少しむくれて横顔で僕を見た。
「隊長とも一緒に寝てたんだろ?」
「うーんまぁ、こう言うとあれだけど大きな犬と一緒に寝るみたいな感覚だったから」
「じゃあ俺はでかい猫扱いでいいからよ、ほら」
ドルフに引き倒され、僕は彼と二人仰向けにベッドに横になった。
ドルフに腕枕をされてるような状態。なんだか恥ずかしくて彼をみると、ドルフはまた僕に頭を差し出してきていた。
「ドルフってもしかして甘えんぼさん?」
「うるせー撫でろ」
そう言って彼は長い尻尾で僕の顔を叩いた。
「うわっぷ、わかったわかった」
僕は再びドルフの頭を撫でる、なんだか可愛くてずっと撫でていたいような気持ちになっている。
ドルフは満足そうに目を細めていた。
「ほあー溶ける……気持ちよくて……ぐるぐるぐる」
喉を鳴らし続けながら、彼の顔がベッドに落ちる。
「寝ちゃった?」
返事はなく、代わりにベッドを振るわせる喉なりと、彼の静かな寝息があった。
「無理もないか、いっぱい頑張って疲れたんだね」
彼の寝顔を撫でると、彼はくすぐったそうに髭を動かした。僕相手に本当に幸せそうな寝顔をしている。
「寝顔がすごく可愛いな……」
額を当てて近くで見つめてみる。
ぐるぐるぐるっと言いながらドルフは僕を抱きしめた。
「ドルフさん?起きてる?寝ぼけてる?」
なんだか胸がドキドキする中、彼はムニャムニャと口を開く。
「ジョッシュ……俺のそばにいてくれ、隊長が元気になるまででいい、俺のそばに……」
「ドルフ……」
僕は掛け布団を引き寄せ、ドルフと二人でそれを被ると、彼を軽く抱きしめる。
「ありがとう、ドルフ」
心からの感謝を彼に囁くと、僕もなんだか気持ちが安らいで、そのまま眠りに落ちていった。




