346回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 150:時の花咲くこの街で(1)
崩壊していく塔から急いで外に出ると、そこにはモンスターの子供達だけではなく、ダーマさんや大勢の街の人間たち、それにリックを抱えたジャレドさんの姿が見えた。
「これは……」
僕が驚いていると、ダーマさんが顔をくしゃっとさせて笑っていった。
「避難誘導の後に子供らが用があるって走っていくからさ、あたしら大人もほっとけないじゃないか」
ジャレドさんが僕に近づいてきた。
ジャレドさんの胸にはミスリルプレートがある、周囲の人間には彼が人間に見えているようだ。
「やったな、少年」
「ジャレドさんも来てくれたんですね」
「人手は多いにこしたことはないだろうしな」
「リックは気を失ってるんですか?」
「ああ……、俺をギャビンと見間違えてたみたいだ」
その言葉と共に寂しそうな表情を浮かべる彼に胸が痛む。
「すみません、ジャレドさん」
「お前が謝る事じゃない、この子達が必死になって協力したのを見れば、お前がなにをしてくれたのかもわかる。ありがとう、子供達を守ってくれて」
「ジョッシューッッッッッッ!!」
鼓膜が破れるかと思うほどの大声をあげ、馬で駆けつけるやいなや、ドルフが馬から飛び降りながら僕に抱きついてきた。
「ぐえーっ!!」
あまりの勢いに押し倒され、僕は衝撃でみっともない悲鳴をあげてしまった。
「おまっ馬鹿野郎お前生きてんじゃねえか!」
何やら激しく動揺してる様子のドルフは僕を乱暴に抱きしめ、僕の体は背骨とかがミシミシ言い始めた。
「ドルッ、ぐるじぃっ、じんじゃうじんじゃう」
「うえーん、お前が死にそうになってることが伝わってくるこっちの身にもなれよぉ」
少し締め付けが緩まり、抜けた手でドルフの頭を撫でると、彼の尻尾が立ち上がってゆったり左右に振られ、抱きつく力もやんわりに変わった、頬擦りされモフモフするのが少し気持ちいい。
ドルフの体を見ると赤い化粧のようなものが塗りたくられていた、なんだか血の匂いがする。
毛皮も焦げたりボロボロで、彼が死線を潜ってきたのがわかった。
「ドルフが生きててくれてよかった」
そう呟きながら僕は心からそう思った。
「ちなみにこの赤い化粧みたいなのは?それにさっきの伝わってくるって一体何のこと?」
「これは、その、お前の血を使って、呪術的に常にお前の状況が伝わってくるようにする儀式でな。獅子王と戦うには必要でな」
顔を赤らめ、恥ずかしそうに顔を背けながらごにょごにょ言うドルフ。
やっぱり呪いじゃん!!
血をとる時に呪いには使わないと言ってた彼に内心つっこみを入れつつも、僕は今の素直な気持ちを口にする事にした。
「ドルフが涙目になってまで心配してくれたの、ちょっと嬉しいかも」
「ばっ馬鹿野郎、誰が泣くかお前なんかのために」
僕の言葉に急に自分の取り乱しに気付いたのか、ドルフは真っ赤な顔で目を丸くして僕から手を離し、急いで立ち上がって、滝のように汗を流しむくれっつらをしながらフンッとそっぽを向いて見せた。
「いじっぱりなんだから」
そんな彼がなんだか可愛らしいなぁと僕は思った。
安堵の空気に包まれ始めていたその場所に、大勢の足音が近づき、人々のざわつきが緊張感を生んでいく。
何事かと様子を見ると、見慣れない鎧姿の兵士たちに周囲を取り囲まれているのがわかった。
そして動揺する僕らの前に、領主が姿を現し、高々と声を上げた。
「この場にいる者達全てに破壊工作の容疑がかけられている、その場を動くな。動けばその者から断罪する」
そう言うと彼は僕を見下ろし、勝ち誇るように笑みを浮かべた。




