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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
344/873

341回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 145:魔王戦:獅子王ガイア(1)

 魔王戦、それは魔王ヴァールダントを失ったモンスター達の間で行われ始めた決闘である。

 七獣将とその大罪の業を治め、モンスター達を導く者、新たな魔王を決める戦い。それを魔王戦と呼ぶ。

 

 一般的にモンスターの一勢力や一部族の頂点に立つ者が、他の勢力の頂点に立つ者に対して挑み、勝ったものが相手と相手の勢力を総取りする形式で行われていく事が多く、七獣将に直接戦いを挑む一般モンスターが皆無であるのは、大罪魔法を持つ者に勝つことができるモンスターは存在しないというのが定説であったからだ。


「その勝負、受けよう」

 ガイアがそう言うと、ドルフの全身の毛が逆立ち、周囲の空間に巨大な津波のように微かな電気が伝播した。

 ドルフの背後、バックス族の虎獣人が十数人、獣のような雄たけびを上げガイアに向かって走り始めた。

「いきなり大罪魔法かよ」

 ガイアの怒りの大罪魔法の影響で自身も発狂しそうになるのをこらえ、脂汗を流しながらドルフは苦笑いし、弓を手に取り走り出した。


「当たり前だ、初動のワイルドハントで理性を失うような者では話にならん」

 ガイアがワイルドハントと呼んだ力場の影響を受け、理性を失った者以外虎獣人達は発狂しないように堪える事で精いっぱいになり、戦闘不能になっていた。

「決闘にうちのもんが割り込んで悪いな」

 虎獣人の攻撃の隙間を狙い、ドルフはガイアに矢を放っていく。

「構わんよ、これが俺の業だからな」

 そういって彼は涼しい顔をしながら、矢を交わし、自らに襲い掛かる虎獣人を一人また一人と、手にした巨大な剣で吹き飛ばしていく。


 ウギャッ、グエッと悲鳴を漏らしながら、谷の岩壁に叩きつけられた虎獣人達に切り傷はない。

 ガイアは乱入者は殺さないように加減する余裕すらあるようだった。


 ガイアに近づくほどに、彼の大罪魔法の影響でドルフの頭の中はかき乱され、認識と思考が混乱し発狂しそうになった。

 しかし彼が意識を失いそうになるたびに、ドルフの体に塗られたジョッシュの血化粧が、ジョッシュの心を彼に伝えて現実に引き戻す。


 血化粧にはその血の主の今感じている気持ちを、化粧をしている者に伝える効果がある。

 苦悩や後悔、痛みを抱えながらも、それでも意志を貫くために心を奮起させるジョッシュの気持ちが彼の心に力を与えた。

「俺だって負けてらんねえ……ッ!」

 蹴散らされていく虎獣人達の体を縫って踏み込み、ブレードアローの斬撃をガイアに振り下ろす。


 その一撃はガイアに傷をつけ、宙に血をまき散らす。しかし浅い、当たる直前ガイアは半歩体を動かしその攻撃をしのいでいたのだ。自らの傷を見てガイアは嬉しそうに笑う。

「ありがたい、貴様相手なら本気を出せそうだ」

 そういったガイアの右腕が目にも止まらぬ速さでドルフの腹を貫く。

 

 腹を貫かれ、体を持ち上げられた形になったドルフは、自身の腹部を見て全身がさあっと冷たくなるの感じた。しかし痛みはない、物理的に貫かれているわけではないようだった。

「うぐぅ!!?」

 体の中の異常な感触にドルフは声をあげた。

 ガイアが右手をドルフの体内でえぐりこむようにひねり、彼の中の何かを力強く握りしめた。

 心臓だ、ガイアの右手はドルフの心臓を握りしめていた。

「死ぬなよ?」

 ニィッとガイアが凶悪な笑みを浮かべた次の瞬間、右手から稲妻の如き強烈な電撃を心臓に直接流され、ドルフは苦痛に絶叫をあげた。



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