338回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 142:バトルフィールド(11)
僕は燃えながら落ちる木の葉に手を差し伸べ指をのばし、指先に意識を集中してそれに触れた。木の葉はパキパキと音を立てて、炎ごと粉みじんに砕けて光の粒になって消えた。
やっぱりまだ混沌浸食は解けてない。
僕はドルフに気づかれないよう敵の亡骸の服を破り、その布を傷の手当てのように巻いて、左腕を隠すとドルフに訪ねた。
「ドルフはどうやってここまでたどり着けたの?」
「ん?どうやってってこいつでこじ開けたんだ」
そう言ってドルフは弓をくるくるっと回しながら僕に突きつける。
「俺たちモンスターは強い願望を抱きながら鍛え続けると、絶技って能力を身につけることがあってな。その絶技ってのが、ジャレドのおっさんの話だと、えーと、この世界のこだわりがどうたらこうたら?とかで。俺の目指してる力のイメージなら、混沌浸食をこえてお前の所にいけるんじゃないかとふんで試してみた」
そう言うとドルフは弓を背に戻してニッと笑った。
「今まで成功したことなかったんだけどよ、うまくいったんでそいつでちょいとな」
なにを言ってるのかいまいちピンと来なかったけれど、ドルフが凄く心配してくれたのだけはなんとなくわかった。
『世界の管理者の力だね』
「管理者?」
パットの声に僕は訪ねた。
『モンスター達はオブジェクトと相反する力を先天的に身につけてる、それを絶技という形に昇華するモンスターが時々いるんだ。オブジェクトに対抗する戦力として僕も昔何度か戦ったことがある』
「どうかしたか?」
今の状態のパットの声はドルフには聞こえていない、僕は首を横に振りながら答えた。
「ううん、なんでもない」
「さてと、お前はどうするんだ?」
ドルフは僕ではない誰かに向かって声を投げかける。
「隠れてたって匂いでわかるぜ、いるんだろそこに」
木々の影からゆっくりと、最後の一人の蛇獣人が姿を現した。
武器をこちらに向けながらも、その表情は恐怖でゆがみ、足がガクガクと震えていた。
「戦意はないみたいだが」
ドルフは横目で僕を見て、判断を委ねるといった様子で両腕を組んだ。
「戦う意思がないなら、帰って。君の大切な人のところへ」
僕がそう言うと、蛇獣人はゆっくり後ずさり、憎悪に歪んだ表情で僕を睨み付けると走り去っていった。
ドルフの視線を背中に感じる。僕は今の気持ちを彼に悟られたくなくて、苦し紛れに言葉を発した。
「お腹減ったね」
ドルフが後ろから近づき、彼は僕に山刀を渡すと口を開いた。
「まだ仕事が残ってる、行くぞ」
「うん」
僕は琥珀のダガーを取り出し、強く握って光らせると、混沌浸食を解除した。先ほどまで燃えていた木々が消失し、静かな森の光景が広がっていく。遠くから僕らの馬が嘶きながら走ってきた。
馬に飛び乗り、走らせながら、僕はエルフの霊薬を一滴飲む。
一瞬立ちくらみのような感覚に襲われながら、傷の消えた手を握ったり開いたりしながら感触をたしかめる。まだ戦える。
「終わったらみんなで飯食いに行こうぜ、俺の奢りでいいからよ」
「お財布空になるまで食べちゃうけど、後悔しないでよね!」
僕らは次の戦場に向かって走り始めた。




