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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
336/873

333回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 137:バトルフィールド(6)

「おい伯父貴、あれ見てみろよ」

「ブロードヘインの人間兵か」

「妙な馬車だな、ひーふーみー」

「ウォーワゴン、移動式の小型要塞みたいなものだ」

「ざっと30台か、其々に戦闘員3、御者を含めても120人。こちらの手勢は250、どうする?」

「不意打ちをかければ殲滅できる、仕掛けよう。俺の部隊が先行する、攻撃を仕掛けると同時にお前達は連中の背後から攻めろ」

「了解!おいベイル、ボーッとしてんじゃねえよ。伝令だ」

「痛ってぇなぁ、蹴らなくてもわかってるよぉ。ったく従兄弟使いが荒いんだから」


 ハイエナ兵達は100名が先行する形で二手に分かれ、人間兵の軍勢を追いかけ奇襲を仕掛けた。

 人間兵を足止めしている間に、背後から挟み撃ちで150名のハイエナ兵が襲いかかる。

 しかしその時馬車の下から虎獣人達が現れ、戦況が膠着した隙に、200のディアナ公国兵が横から戦闘に介入。ハイエナ兵達は大量の死傷者を出し、森へと逃れる羽目になってしまう。


 敵に追われ森の奥へと踏み込んでいくと、突然一斉に森が枯れ始め、森の外側から火を放たれ、火に取り囲まれた彼らはそれから逃れる為に森をひた走る。


 ようやく森を抜けた先に草原が広がっていた。敵の追撃の気配もなく、安堵したハイエナ兵達が草原に踏み込んでいく中、ハイエナ兵を率いる隊長が草原の中の朽ちた木に生えた苔に気づき、撤退を命令する。

 しかし時すでに遅く、草原も一斉に朽ち果て沼地へと変わり、ハイエナ兵達は足を取られてその場に拘束されてしまう。

 そんな彼らの前にサラマンダーが数人、そしてサラマンダーの長が沼の中から現れた。


「お前達、何者だ?」

「話し合いをしにきました」

「話し合う必要などない、我らは魔王軍だ、モンスターならば我らに協力しろ」

「おや、いけませんよ。戦いなど、傷つくばかりで益などありませんのに」

 そういうと長は優しくハイエナ兵達に微笑みかける。

「やめにされてはいかがか、無益な殺生など虚しいだけでございましょう。あなた方が戦いをやめると、そう仰るのならば、我らの里へとお迎えし、怪我をされた方の治療も致しますよ」

「うるさい!早く沼から出せ、出さなければ」

「おい、早まるなジミー」

「貴様らを皆殺しにする」

 ジミーと呼ばれたハイエナ獣人はつがえた矢を放ち、長の隣にいたサラマンダーの若者を1人射殺した。


 サラマンダーの長は目を伏せ、俯くと首を横に振る。

「残念です、あなた方とは理解しあえないようですね」

 彼は顔を上げ、不気味なほどに静かに微笑むと、口を開いて「ブローム」と一言呟いた。


 ハイエナ兵達は1人また1人と泥の中の自分の体が焼け爛れていくような痛みを感じて悲鳴を上げ始める。

 沼から腕を引き抜いたハイエナ兵の手にあったのは肉のそげ落ちた白骨化した腕、それを見た途端その兵士は激痛と衝撃に発狂したような叫び声を上げた。

 沼が蠢き、赤黒い透明な何かに変わりながらハイエナ兵達を飲み込もうとする。


「沼を爆破しろ!早く!!」

 隊長の声に従いハイエナ兵達がありったけの爆薬で沼を爆破し、爆風で辛うじて沼から抜け出せた十数人を除いて、みな断末魔をあげながら山のように盛り上がった沼に飲み込まれて溶けて死んでいった。


「なんだよ……なんなんだよこれは」

 あまりの恐怖に腰が抜けて、動けなくなったベイルに、赤黒い沼の一部が猛烈な勢いで迫る。

 誰かに突き飛ばされ、地面を転がったベイルが顔を上げると、そこには自分の代わりに沼に飲み込まれていく従兄弟のダリルの姿があった。

「早く、逃げろ」

 内臓を溶かされながら、ごぼごぼと、不気味な音をさせ、彼の声とは思えない苦しげな声でダリルはそう言うと。目の光を失い、ガクンと力なく身体を垂らし、ゴキュゴキュという消化音で身体を溶かされ、ベイルの前にダリルの首が転がり落ちた。

「ひっ」

 ダリルの首は苦悶の表情を浮かべていた。

 自責の念と悲しみで、ベイルは彼の首を抱いて泣き始めた。

「立て!生き延びた者は早く逃げろ!!」

 隊長の怒号が響く。

 ベイルはハイエナ兵に頬を叩かれ、首元を掴まれて引きずられながら、自分達の代わりに、人喰い沼の注意を引く肉の壁となった隊長達、ベイルの父の姿が見えた。

「親父ぃ、嘘だろ……なぁ」

 涙で顔をくしゃくしゃにしながら、ベイルはハイエナ兵達が生き物ではない消化物へと変化していく様子を見つめ、苦悶の叫びを聞いていた。


---


「あれ、どうして……」

 琥珀のダガーを掲げ、そう呟きながら首を傾げているジョッシュにドルフが馬を併走させて近づく。

「どうかしたか?」

「レルネー湿地帯の罠にかかって足止めされてた魔王軍が突然消えたんだ、なにがあったんだろう」

「サラマンダーの沼のあたりだな、おそらく連中の逆鱗にでも触れたんだろう」

「そういえばあいつらなんでサラマンダーなんて呼ばれてるんだにゃ?」

「温厚で大人しく見えるけど、あいつらの文化は独特でな。理解し会えないと判断した相手は必ず全滅させるんだ。あの沼地の全てがブロームっていう巨大なスライムでな、あれが通ったあとはまるで大火事でもあったかみたいに消化液で焼け焦げるから、それで着いた名前がサラマンダー」

「消えた魔王軍ってもしかしてスライムに食べられたの!?」

「おいら達そんな物騒なものの中通ったのかにゃ……」

「あいつらの呼び名は警告の意味があるんだよ、関わるなってな」


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