330回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 134:バトルフィールド(3)
進軍する魔王軍の一部は、かつて彼らが攻め滅ぼした集落の廃墟までやってきた、モンスターの部隊には必ず半数以上は鼻の効く種族が配属される。それは彼らの嗅覚が対人間の戦場において有効であるからだ。
例えば敵が廃墟に潜み、モンスターの部隊をやり過ごした後に、背後から奇襲をかけ部隊を殲滅すると言った状況にも事前に対処することが可能である。
部隊に配属されていた犬型獣人兵が集落の廃墟から真新しい人間の匂いを嗅ぎつけ、モンスター達は進路を変更し集落へと踏み込んでいく。
犬型モンスターは建物の廃墟に隠れた匂いの主に気づかれないよう近づき、物陰から飛び出して手にした剣で人影を斬り伏せる。
「!?」
しかし彼が切ったのはただのカカシだ、匂いの元はそれに着せられた古着。
嵌められた!そう思い周囲を警戒しようとした犬獣人の目をボウガンの矢が貫く。
「ひっ……」
驚きのあまり剣を落とし、じくりじくりと加速度的に強まる激痛に目を押さえ、犬獣人は悲鳴を上げようとした。
「ガッ……ボ……」
声が出ない、それどころか息すらできなかった。彼が恐る恐る自分の首を触ると、そこには大きな切れ目があり、血と体液の混合物が泡になって吹き出し、ヒューッヒューッと気味の悪い音が漏れ出ていた。
「ひっギャッ!?」
顔を後ろから誰かに掴まれて、口を無理やり閉ざされ体を弓反りにされ、自分を羽交い締めにする何者かの腕の隙間から見えた、自身の首を掻き切ったであろう猛禽類の爪のような形をしたカランビットナイフと呼ばれる血塗れのナイフが胸に深々と突き立てられるのを光が失われていく見開かれた目で見つめていた。
モンスターを一体仕留めた覆面ギャングの1人は、血の匂いにモンスターたちが集まるのを確認しながら影の中に溶けるように消え、その場にやってきた2人のモンスターが仲間の死体を見て動揺した隙に、廃墟二階から一斉射撃されたボウガンで2人とも頭がハリネズミのようにされ、その場に崩れ落ち、痙攣する。
廃墟の二階部分から立ち並ぶ廃墟の高さの有利を保ちながらギャングたちが移動し、モンスターの数をじわりじわりと削り、その行動範囲を狭めて包囲を進めていく。
モンスターの部隊を率いる一際体格の大きい狼獣人のモンスターが地鳴りのような雄叫びを放ち、モンスター達は一斉に弓を構えて、上階に向けて矢の雨を降らせた。
しかし彼らが射抜いたのは、ギャングがモンスターの死体から引き抜いた内臓をなすりつけた廃墟の壁だ。混乱と焦燥、そして良すぎる彼らの嗅覚が認識を阻害していた。
モンスター達は上階からの攻撃が凌げる障害物のある道を見つけ、そこから集落の外に抜けようと走り出した。
集落から飛び出し、攻勢に転じようとしたモンスター部隊長と部下達の前に、草むらから一斉に虎獣人達が飛び出し、弓を構えて飛び出し道を阻んだ。
モンスター達の後方からはギャング達が迫り、進退窮まった部隊長は、突撃の雄叫びを上げ、モンスター達もそれに続く。
虎獣人達の強弓の一斉射撃がモンスター達の体をバラバラに撒き散らして血の雨を降らせる。
その様子にギャング達が若干引きながら敵じゃなくてよかったなと口々に言った。
虎獣人の1人が息も絶え絶えなモンスター部隊長の首を切り落として、その首を掲げると勝利の雄叫びを叫ぶ。
虎獣人の1人が犬笛を吹き、狼がそれに合わせて遠吠えで他の部隊に状況を伝達。
ギャングと虎獣人達は互いの顔を見合わせうなづくと次の戦場へ向かうのだった。




