328回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 132:バトルフィールド(1)
この世界の空は、その中心にある混沌の渦と呼ばれる大穴と、それが放出するこの世界の人が星と呼ぶエネルギーで構成されている。
昼間には星が混沌の渦の周辺を取り囲む光輪となって、空は青く輝き地表が光で照らされる。
夕方になると光輪から小さな星が空に散り散りに散らばりはじめて、空が黄昏色にかわる。
夜には光輪は消えて、真っ暗な闇の中散りばめられた星が輝き夜空になり。
夜が明け始める頃、星がまた混沌の渦の周辺に集まって、光輪を形成し始める。
明朝、空の光輪はまだぼんやりとしていて、薄明かりの空は紫色だ。
僕らは小高い丘であるものを待っていた。
指笛を鳴らすとドルフの里からの付き合いの馬が走ってきて、僕は馬を撫でるとその背に乗った。ここにいるのは僕とドルフとリガーとマックス、みんなそれぞれの馬に乗っている。
リガーは馬に乗るのが苦手なようで、初めは苦戦していたが今は危なげなく乗りこなしている。
遠くから狼の鳴き声が聞こえる。ドルフの里の戦士達が持ち場についた合図だ。それに続いてカラスが僕らのそばまで飛び暗号の鳴き声でドルマ達の準備が完了したことを伝えた。
「後戻りは出来ねぇ、覚悟はいいか?」
ドルフが僕の肩を掴んでそう尋ねる。僕は自分の震えている手を見て、それを握りしめる。
この後に及んで少しだけ逃げたいって気持ちは嘘じゃない、死にたくない、だけどそれはみんな同じだ。
ましてこの戦いは僕のわがままにみんなを付き合わせてる、それなら精一杯強がって、誰より前へ。
遠くから魔王軍の軍勢が迫るのが見えた。モンスター達の進撃の地響き、雄叫びが遠く離れていても聞こえてくる。
「行こう、戦闘開始だ!」
「隊長ぶりやがって、足引っ張んなよジョッシュ!」
「ディアナ公国兵の戦をお見せしましょう」
「あっおいらちょっと用事思い出したにゃ……あーッこのクソ馬勝手に走り出すなにゃー!!」
空の星が集まり、黄昏色の閃光とともに光輪を形成して、空は青く大地が朝の光に照らし出される。
それぞれの想いを胸に、遂に戦いの火蓋は切って落とされたのだった。




