322回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 127:嵐までの七日間(6-8)
三回目の爆発。元々入り組んだ場所にあるのが災いして、爆発で起こった黒い粉塵があたりを包み混み視界がほとんど効かないような状況の中を僕らは進んでいた。
煙の中、子供の泣き声がして僕はその方向へと足を進める。風が吹き、煙が薄れた先に血まみれになった子供がいた。一瞬死体なのかと思いゾッとする、しかし、子供は涙を拭いながら両親を呼び、泣き叫んでいた。
僕らはその子供を連れてダーマの酒場までやってきた。
扉を開け中に入るといつもは押し寄せるような騒がしさの場所が、今日はしんと静まりかえっている。
「あーあんた達かい、旧市街の方で爆発があったんだって?ここまでどでかい音が聞こえて大騒ぎさ」
ダーマが僕らを迎えてくれた、彼女は僕が背負った血まみれの子供を見ると動きを止め真剣な顔をした。
「その子怪我は?」
「擦り傷がいくつか、あとは体を洗わないとわからない」
「まずは風呂だね、今は客も誰もいないから遠慮はいらないよ!」
男湯の中に着衣のまま入ってきたダーマが子供をあやしながら洗うのを横目に、僕らは体の煤と、いつついたのかわからない全身の血を洗い流していった。
ダーマの話によるとギャングのメンバーである客の大半があの騒動で店から出て行って、他の客達も事件が起きてみんな出かけるの控えてるようで、店にはダーマしかいないという事だった。
僕らが風呂を済ませて出てくると、そこにはシバの姿があった。彼は何かを探してる様子だった。
「あっジョッシュさん」
「どうしたの?」
「忘れ物しちゃって、おかしいなここら辺にあるはずなんだけどな」
シバは尻尾をだらんと垂らし耳を伏せてしょんぼりと店の隅々を探し回っていた。
「一緒に探すよ」
「わぁありがとう!」
柴犬の丸っこい顔をぱぁっと笑顔にして尻尾を振りまくるシバを見て、僕は少し気持ちが安らぐのを感じた。
「シバってムードメーカーなとこあるよね」
「ムー?なんです?」
「一緒にいると元気出るって事」
「はーっよく言われるです!」
「帰る……」
その声に僕とシバは振り返ると、そこには着替えを済ませた男の子とダーマの姿があった。
「帰るったって、あんたの家は……家族が無事かどうかわかるまでここにいた方がいいんだよ」
「やだ!帰る!!帰るんだ!!」
そう言って男の子はダーマの手を振り払い走り出してしまう。
「シバ!その子を止めておくれ!!」
「え?あっはいきた!!」
そう言って急いで立ち上がり、男の子を抱き留めたシバだったが、腕の中で男の子が暴れてそのまま床に倒れ込んでしまった。
「ちょっあっいたいいたい!暴れないで!話を聞いて!!」
その時男の子の手がシバの首のミスリルタグを繋げた紐に引っかかり、勢いよく引かれた紐が千切れ、タグがシバの体を離れ宙を舞った。
「あ」
しまった、僕が駆けだしタグをシバに戻そうとする。しかしシバの体が淡く光り、その光が弾けて消えるのが見えた。
男の子がシバを丸い目をして見つめていた。
「モンスター……?」
男の子の口からそう言葉が漏れる。
シバの正体がさらけ出されてしまったのだ。




