321回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 126:嵐までの七日間(6-7)
戦々恐々とした状況の中で拍手をする音が響いた。
誰しもが自分の身を守るために必死で気にもとめていなかったが、僕はその音の方向を見る。
その音の主はオルグだった、彼は僕が彼を見たのを確認するとにっこりと笑って、大きな声で言った。
「いやぁ実に素晴らしい花火だ、爆発の後にアートまで見られるなんて」
「あんたがやったのか」
僕の言葉にマックスとドルマが驚く。
「オルグ、てめえ何考えてやがる。ついに頭までいかれちまったか!!」
ドルマの怒りに満ちた声に対して、オルグはその反応が見たかったんだと、動物園の獣でも見るかのような満足げな表情を浮かべて見せた。
「これは手始めだよ、君たちが魔王軍と戦うその日、私はこの都市を爆破する。
それでも君たちは戦えるかな?」
彼は僕に向かってウィンクをしてみせる。
私の頼みを君が聞いてくれさえすれば、全て解決するんだよ?そう言うように。
「この都市を育ててるって言ったろ」
「そうさ、これは必要な破滅なんだ。この破滅の後、尊い犠牲を肥料にして、ブロードヘインは強く大きな国となる」
彼は空を見上げ恍惚としたような表情で、吐息をこぼすように言葉を続ける。
「そしていつか、この都市はディアナ公国なんかよりもずっとずっと大きな国になるよ」
『ジョッシュ、よく見て』
パットの言葉に目をこらすと、燃えさかる闇市の炎の光に揺れて、オルグの影が巨大なコウモリの姿をしているのがわかった。
「あれは、もしかして」
『彼がこの都市の大罪の悪魔の正体だ、傲慢の悪魔ルシファー』
僕が山刀を引き抜き琥珀のダガーと共に構えると、マックスとドルマも臨戦態勢をとった。混乱する人々の群れの中から、影のようにスーツ姿の仮面を被った男達がオルグを守るために一斉に襲いかかってくる。
「止めなきゃ、あいつを!」
僕は仮面の男を殴り飛ばし、琥珀のダガーを使いオルグの足下に蔦を生み出し足を絡め取る、しかし蔦が一瞬にして枯れ果て崩れ落ちてしまう。
「いいね、計算通りだ。人々の恐怖は私を強くする」
オルグはそう言って嬉しそうに笑うと、きびすを返し、都市の闇の中へと歩いて消えていく。
急いで追いかけようとするが、仮面の男達がどんどん増えて行く手を遮られる。
「くそっどいてくれ!あいつをほっておいたらみんなが!!」
「ジョッシュ、ここは身を守る方が先決です」
「連中の腹の中だからな、いくらでもわいてきやがる。ついてこい、脱出するぞ!!」
ドルマの言葉に動き出したマックスに腕を捕まれ、引きずられるように僕は闇市を後にするしかなかった。




