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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
異世界勇者の解呪魔法
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315回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 120:嵐までの七日間(6)

 キルシュの嫉妬の大罪魔法についていくつかわかったことがある。

 発動している最中は生物や非生物関わりなく物性が入れ替わる、そしてキルシュにとって大きなコンプレックスとなっている視力について。大罪魔法でみんなの目がが見えなくなる代わりにキルシュの目が見えるようになっていたようだ。

 自身の意思で発動させているわけじゃなく、僕には闇に紛れて見えなかった阿鼻叫喚の光景をただ見ているしか出来なかった彼女の心境を考えるといたたまれない気持ちになった。


「僕はなんで大丈夫だったんだろう?」

『それはオブジェクトであるボクと契約してるからさ。

 オブジェクト契約者(ディオス)はオブジェクトを仲介して常に混沌と接続されている、この世界の理とズレた場所に存在しているから、大罪魔法の影響を受けにくいんだ』

「この間の深く繋がり過ぎるとオブジェクトに取り込まれるっていう性質のポジティブな面が作用してたわけか」

『この性質がなければ人間達はモンスターに太刀打ちできなかっただろうね』

 なるほどなーと呟きながら、僕はエプロンを翻し、皿を片手にカフェのテラスへと向かう。


 歩道に張り出された客席は観葉植物に囲まれ、テラスの中央の何点かに植えられた木が木陰を作り、屋外だというのに涼しく快適な空間になっていた。

「お待たせしました、夏野菜のサラダ冷製スープ仕立てになります」

 僕はそう言うと、眼鏡の似合うふくよかな胸が印象的なカフェのオーナーに、僕の創作サラダを差し出した。

「このスープ、トマトかしら?赤いスープと色とりどりの野菜のコントラストが爽やかね」

「ガスパチョって言います、ドレッシングの役割もあるので、野菜と一緒にスプーンですくって召し上がってください」

 オーナーはスプーンに野菜とスープを掬い、上品に口に運ぶと、驚いたような顔をして微笑んで見せた。ふくよかな胸が服をはち切れんばかりに揺れてドキドキする。

「体に染み込むみたいに優しい味、だけどしっかり存在感を感じる。素晴らしいわ。それにこれも素敵ね」

 そう言って彼女がスプーンで指し示した場所には、乾燥パセリで描いたグレッグのデフォルメ顔のイラストがあった。

「あちゃー」

 また無意識にグレッグの顔を入れていた僕は、言われてその存在に気づき、真っ赤になった顔を両手で隠した。


「恥ずかしがらなくていいのよ、とっても可愛いわ。この子名前はあるの?」

「グレッグです」

「そう、気に入ったわ。このサラダうちで採用させてもらいます。

 その名もグレッグサラダ!きっと看板メニューになるわ!」

 ありがとう!そう言ってオーナーは僕の両手を握る。彼女の意図してか意図せずか、僕の手がオーナーのふくよかな胸に挟まれ、その感触と温もりに僕はドキドキした。

『思春期の子供じゃあるまいに』

「免疫がないんだもの、仕方ないじゃない」

「なにか言った?」

「いいえ、喜んでいただけて嬉しいです」


 なんだかグレッグが目を覚ました後にいろいろ大変なことになってそうな気がして、僕は心の中でグレッグにごめんねと謝罪するのだった。


 僕がなぜこんな事をしているかと言うと、モンスターの子供達の安全を考え居場所が把握されていない場所で活動した方がいいと考えた僕らは、ダーマのつてで食事面をサポートしてくれるこのカフェのオーナーを紹介され、挨拶に来たらなんやかやと意気投合してしまい、新メニューに悩んでいるという彼女のために料理を披露することになったのだった。


 モンスターの子供達が美味しそうにカフェの料理を頬張っている。

 その中にはリックやシバ、そしてキルシュの姿もあった。

『あのキルシュって子、自然な顔で笑うようになったね』

 僕に気づいたキルシュは屈託のない笑みを僕に向ける。それは今まで僕が見てきた彼女の笑顔のどれよりも暖かなものだった。


 ずっとこんな日々が続けばいい、そう思う。だからこそ僕らは守らなきゃいけない。

『そろそろ約束の時間だよ』

 パットのその言葉を聞いて僕はエプロンを外し、武器と装備を身につけ、カフェを後にした。

劇中だと物流が滞ってて乳製品の関係がないので描写できませんでしたが、グレッグサラダはシーザーサラダドレッシングもあわせて使うとより美味しく召し上がれます。

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