306回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 111:嵐までの七日間(4-7)
リックは警備兵が通りかかる度に物陰に隠れ、手当たり次第部屋を調べて回っていた。しかし広い館の中でそれは不毛にも思える作業だった。
「今助けるからな」
不毛だろうがなんだと彼は進んでいく。館の中のすべての部屋を調べれば、どれか一つにはキルシュがいるはずだ。疑念や不安は置き去りに、彼の胸を焼き尽くすような義務感は彼に止まることを許さない。
「なんだ?」
彼が違和感に気づいたのは窓の外を見たときだった。
異常なほどに繁殖した植物の蔦が窓を埋め尽くしている、それも一カ所だけではなく何カ所も。窓が開く音にリックが振り返ると、窓から侵入してきた蔦が、床を這って一方向へと伸びていく。
明らかに自然現象ではあり得ないそれの意味を察した彼は、その得体の知れない誘いに乗り、蔦が先導する道を歩き始めた。
* * *
「よしついてきてくれた」
僕はリックが僕の蔦の誘導に従って動き始めたのを確認してほっとため息をつく。
『場所はあの東塔でいいんだね?』
「あのときのキルシュと同じ雰囲気なんだ、間違いないよ」
僕は周囲を見回す、直接見える視界の他に、生命力の形が光る人影のような形で別の階や壁の向こう側を歩いているのが見えた。
「さてと」
そう言うと僕は眼前にダガーを構えて、蓄えた光を解き放つように横薙ぎに空を切る。
建物に侵入させた蔦が一斉に生長し通路を塞ぐ壁となって、館の中の人影の進路を限定させた。
このルートならリックが3階にたどり着くまでに彼に追いつける者はいない。
僕はこちらに近づいてくる人影に気づき、窓から外に飛び出すと、蔦を掴んで壁を上り始めた。
『ねぇジョッシュ、少し思ったこと言っても良い?』
「ん?なに?」
『最近君体張りすぎじゃない?』
「これくらいやらないと、僕にはリックに関わる責任があるから」
『君なりに考えた結果ならいいんだけど、無茶しないで。君は時々自分の危険を顧みないところがあるから』
「うん、ありがとうパット」
気をつけようと思った矢先、三階を進んでいたリックに近づく五人の人影に気づいた僕は、壁を蹴って蔦を使い分銅のように体に反動をつけると、大きな音を出して窓ガラスを蹴りやぶり、アクション映画のように大げさに転がって中に侵入した。
五人の屈強な男が足を止め、僕を注視する。
パットのはぁーという諦めの混ざったため息が聞こえる中、僕は警備兵に追われながら廊下を全力で走り始めた。




