305回目 異世界勇者の解呪魔法(ディスペルマジック) 110:嵐までの七日間(4-6)
僕は領主の館を見下ろせる煙突の先に上り、館を見下ろした。
『どこから入ったのかな、窓がありすぎてわかんないや』
僕は顔に手をあて、琥珀のダガーを煙突の端にあてると神経を集中する。
脈打つように周囲のかすかな生命力の流れが伝わってくる。
リックの生命力の感触を掴むために、さらに集中すると、流れの中に動き回る点のような物が存在していることがわかった。
「館の中の人達の生命力を掴んだ」
『オブジェクトとあまり深く繋がらないように気をつけて』
「リックの居場所がまだわからないんだ」
『もう、言っても聞かないんだから。ボクも手伝うけど、危なくなったら強制的に終わりにするからね』
神経を研ぎ澄ませていくと、人々の息遣いまで聞こえてくるようだった。僕の足下を中心に波が広がっていくような感覚。その波の中に生まれた小さな飛沫を僕は確かに感じ取る。
「リックだ、今二階の北側の通路を通ってる」
そう言うと僕はダガーの力を使い、領主の館の地面から無数の蔦を館の壁を這わせて伸ばし、その中の数本をひねりながら煙突まで伸ばし、ロープウェイのロープのようにした。
『二階の南側?リックと合流しないの?』
僕は皮の布を手に巻き付け、蔦のロープにそれをひっかけると、煙突の壁面を蹴り勢いよく領主の館に向かって滑り始める。
「今顔を合わせても一緒に行動するのは難しいと思う、だからリックをサポートしながら僕は僕でキルシュを探す。二手の方が早いしね」
『つまりあれを館にいる間ずっとやるわけかい?』
呆れた様子でそういうパットに僕は苦笑いする。
「いつも感謝してますパットさん」
『やれやれボクじゃなきゃ君みたいに手のかかる持ち主早々に見限ってると思うよ』
僕はそのまま館の庭の大きな木の葉の中に入り、そこに身を隠すようにして建物の中に侵入した。物陰に隠れ、再び生命力の流れを探知する。警備していると思わしき人間の位置を把握し、どう進むか考えていると、流れの中にぽっかり開いた黒い穴のような場所があることに気づく。
窓から場所を確認するとそれは四階の東塔、その穴の冷たい感覚は大罪魔法の闇のようだった。




